皮膚表面電極による機能的電気刺激(sFES)において,刺激効果は電極直下が最も強いため,皮下深部の運動神経を選択的に刺激することは一般に困難である。本研究では,浅部の神経発火をできるだけ不活性化しつつ,深部の神経を効果的に刺激する新しい手法の開発を目指した。 発火閾値下の交流刺激を神経軸索に与えた際に生じる閾値上昇効果によって,皮下浅部の神経軸索を不活性化できる可能性がある。また神経軸索への刺激効果は,刺激電流が皮下に作る電位の空間的2次微分に近似的に比例するが,その皮下深度依存性は交流刺激電流の周波数によって異なり,高周波ほど深い部分にまで刺激効果が届くため,この周波数依存性も利用できる可能性がある。これらの効果に加え,神経軸索の発火閾値はその太さに応じた刺激周波数依存性をもつことに注目し,深部において特定の太さ以上または以下の神経軸索を選択的に発火させる刺激方式を提案し,その実証実験を試みた。 刺激実験では,閾値下のバースト状高周波または低周波による不活性化刺激と,閾値上のバースト状低周波または高周波刺激を継時的に発生させ,このペアを神経発火が追随可能な周期で繰り返すことで,自由な選択性ではないものの,新しい原理による選択的な神経刺激ができるという仮説をたて,刺激条件の探索を行った。 刺激には,手掌の背屈および手指の伸展が十分に生じるような前腕上の位置に配置した導電性ゴム電極2枚を使用した。また,手の甲と中指中節骨上に傾斜角度センサを装着し,sFESによって生じた手掌と手指の運動を個別に記録した。結果として,周期的に繰り返される不活性化用第一刺激と興奮用第二刺激の周波数の種々の組み合わせにおいて,第二刺激だけによる運動とは異なる結果,つまり選択的運動神経刺激の可能性が確認された。ただし,この効果が生じるためには,両刺激を繰り返す周期を約70ms以上とする必要があることも確認された。
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