本研究の目的は,病気や怪我で手足が不自由となった運動弱者の生活の質(Quality of Life)を改善するため,ハンズフリーでPCや携帯情報端末を利用できるメガネ型の視線入力装置を開発することである.平成28年度は,メガネフレームに装着した超小型カメラを用いた眼球特徴点の高速検出アルゴリズムの開発および眼と頭の動きを利用した視線入力方法の検討・開発に取り組んだ. 最初に,眼球特徴点の検出法について,これまでに開発したbilateral filterによる方法は,画像処理コストが大きく,リアルタイム性の点で課題があった.そこで,低輝度画素のヒストグラムを利用した特徴点検出アルゴリズムを新たに開発し,自然照明下で取得した眼球画像中の虹彩(黒目)領域の重心位置を30フレーム/秒で算出できることを確認した. 次に,キャリブレーション不要で快適な視線操作を実現するため,2種類の眼球運動に着目したコマンド選択型の視線入力方法を開発した.サッカード(saccade)はキョロキョロと視線の向きを切り替えるときに生じるきわめて高速な眼球運動で,前庭動眼反射(VOR)は頭部回転時に眼を頭の回転方向と逆向きに回転させるスムーズな反射運動である.黒目の重心位置の時系列データから眼球速度の違いを利用してsaccadeとVORを識別し,特定の眼球運動パターン(saccade)による視線入力モードのオン/オフ,およびVORの速度から頭部回転量を推定することにより頭部回転角に応じた高速なコマンド選択が可能であることを確認した.今回開発した方法をPC操作に適用する場合,コマンド番号とキーボードのショートカットを対応させるだけでハンズフリー操作を実現できる.
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