研究課題/領域番号 |
26350685
|
研究機関 | 第一工業大学 |
研究代表者 |
大惠 克俊 第一工業大学, 工学部, 准教授 (80388123)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 人工喉頭 / 表面筋電位 / スピーキングバルブ / 気管切開 / 筋電位制御 |
研究実績の概要 |
平成27年度以降においては,前年度までに作製したデバイスを用いた性能評価および改良を重点課題として研究を進める予定であった.しかし前年度の研究が予定通りに進捗せず,デバイス試作にまで至らなかった.従って本年度でもデバイスの改良に終始した. スピーキングバルブに関しては,バルブ内へ設置する整流板形状の改良を推し進めた.本年度で提案したものは,バルブ内側側面に設置する三角柱型であるが,前年度までのものとは異なり,中心を偏らせた形状とした.本形状を使用することで昨年度よりも気流抵抗の低減が見られたが,さらなる最適化を行う余地があると考えられる. 制御パラメータの最適化に関しては,従来通り発声音のピッチ周波数と筋電位信号を同時に測定・記録し,その相関関係を求めた.その結果,指数関数を用いた制御関数の決定係数が,ほかの関数と比較して高い値を示すことが確認された.これは前年度よりも被験者を増やした(3倍強)結果であり,より一般的な傾向を示したと考える. 音源の形状改良に関しては,音源自体の形状に加え,周辺の空気を含む解析を行った.本解析モデルはこれまでに提案された振動板と駆動部を分離した形状を改良したものであり,より長い駆動部をより柔軟に振動板に結合したものである.本内容に関しては,研究協力者により論文化された. 発声用小型ポンプおよび制御ユニットの形状最適化に関しては,人員の都合により実施しなかった. また本年度より制御ユニットを用いた福祉機器に関する研究にも着手し,幼児・小児が筋電位信号の発生訓練に用いるための玩具を作製した.これは筋電位信号により平面を走行する車両で,オンオフ制御により前進・後退を行うことが可能なものである.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
スピーキングバルブ形状の最適化に関しては,シミュレーション時(特に呼気時)の境界条件に不備が見つかったため,境界条件の再設定が必要となり,その決定に時間を要した.また前年度に見つかった新しい形状に関する設計方針を練り直す必要があり,その点も遅延につながったと考えられる.さらに光造形により作製した試作品の動作に問題があり,駆動方法などを含む根本的な設計変更についても議論をする必要が生じた. 制御パラメータの最適化に関しては,これまでに制御関数として指数関数が適しているという結果に達したが,この実証に時間を費やすこととなった.筋電位信号の出力電圧に関する個人差は少ないが,電極の貼付部位により出力信号に個人差が見られた.そのため被験者の選定および慣れに関する条件が加わり実験の進捗に遅延が生じた. 音源形状の最適化に関しては,ほぼ予定通り進捗したと考えられ,これまでの成果は本年度において報告された. 制御ユニットを用いて制御を行う福祉機器に関しては,当初の予定通り本年度から着手することができ,筋電位信号により制御を行う筋電位発生訓練用デバイスが試作された.本デバイスは筋電位制御型人工喉頭・スピーキングバルブや筋電義手などを使用する際の筋電位信号の発生訓練に使用するもので,幼・小児が飽きずに訓練できるよう玩具を用いたものとした.翌年度以降も継続して改良を行う予定である. 本年度は研究体制の縮小もあり,進捗の見込みが少ない複数のテーマを中断することとなった.しかし当初の計画通り進んだものや,新たに開始したテーマもあるため,全体としてはやや遅れていると判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度はさらに研究体制が縮小されたため,リソースを集中し,以下の3点に関する研究を遂行する. スピーキングバルブ:整流板形状の最適化に関しては,27年度の成果において中心を偏らせた整流板の優位性が確認されたため,本形状の最適形状導出に関する研究を進める.設計時のパラメータを実験計画法により定め,効率的に最適形状の導出を行う.また,シミュレーションをこれまでに用いてきたものに加え,他のシミュレーションを併用する予定である.これは昨年明らかとなった境界条件の不備から解析作業が停滞してしまったことを踏まえ,複数の手法により解析を行うことで,事前もしくは早期にミスを発見できることを期待するためである.また試作を見越した「実際に動作する」形状に踏み込んだ設計にも着手する予定である. 制御パラメータ:被験者をより増やすことで,より高精度な制御が可能な関数の導出を行う.その関数を用い,電気喉頭制御用プログラムを作成,性能評価を行う.また被験者の時系列での発生筋電位に関するデータ収集及び解析を行い,訓練による習熟度向上に関する評価を行う予定である. 筋電位訓練用デバイス:昨年度作成した訓練デバイスを改良し,オンオフだけではなく筋電位信号の強弱による擬似的なアナログ制御を行うことで,より動作に幅のあるデバイスとする.この制御に関しては,上述の制御パラメータの研究成果を導入し,より使用者(幼・小児)が楽しみやすいデバイスとすることを目的とする. その他:将来的な研究を見据えた,制御ユニットを用いたデバイスに関する検討及び考察を進める予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究申請当初,平成27年度においては前年度までの成果に基づき,複数のデバイスの試作及び性能評価を行う予定であった.しかし,設計変更や新しいパラメータの発見等による研究進捗の遅れや方針転換などにより,現段階では試作を行うレベルには達していない.従って計上していた試作費および測定に用いるために購入予定であった物品費が不使用となったため,残高が発生したものである.
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度においては前年度までの経過を踏まえ,計画よりも多くのデバイス試作を行う予定である.またこれらの評価に用いるための測定機材の購入費,さらに被験者を増やすために被験者への謝金などが必要となると考えられる.次年度の助成金と併せて,これらの部品費,試作費,物品費,謝金などに使用する予定である.
|