研究課題/領域番号 |
26350693
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
田村 繁治 国立研究開発法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 主任研究員 (70357490)
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研究分担者 |
伊藤 納奈 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 人間情報研究部門, 主任研究員 (80392588)
岡本 洋輔 大同大学, 工学部, 講師 (80612184) [辞退]
茂里 康 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 総括研究主幹 (90357187)
中川 誠司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 上級主任研究員 (70357614)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 色覚障がい / 色弱 / 照明 / バリアフリー |
研究実績の概要 |
人間は外部からの情報は五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)を利用して知る。その中でも、視覚情報は全体の8割以上を占めているので、目を通じて情報を正しく伝達することは極めて重要である。視覚情報の正確な伝達を妨げる事象の1つに、色覚障がいがある。色覚障がい者数は男性の5%、女性の0.2%、日本全体では320万人近くであり、欧米ではその割合は日本よりも多い。現代社会では、細分化された色を利用して情報を伝えるケースが増加している。例えば、交通機関の路線図、街中の行き先表示板、病院の床の行き先案内矢印、交通標識、薬の包装などであり、それらの意味する色情報が誤って伝達されると、日常生活のみならず安全面でも大きな支障・影響が懸念される。色覚障がい者は工夫して色の識別を行っているが、色の多様化により、もはや自助努力だけでは危険を避けられない、との指摘もある。 本事業では、色覚障がい者が配色パターンを正しく認識するための照明光源技術、すなわち色覚バリアフリー照明の開発を行っている。 平成27年度は、(1)前年度に得られたデータ、D65標準光源 プラス 1波長(合計7種類)のLED光の組み合わせについて、光学的、色彩学的、人間科学的な観点から結果の分析を行い、何点かの新規な知見を得た。また、これまでに使用した種々の環境照明光の演色評価数(Ra)を算出し、色覚障がい者には色の識別に効果がある照明のRa値は、一般色覚者にとっては違和感を感じるものであった。具体的には、これまでに効果があった色覚バリアフリー照明光は紫色、あるいは赤色であった。そこで、Ra値を改善する観点から、波長が異なる2種類のLED光のみを環境照明光として使用することを考え、LED光の組み合わせについて、色覚シミュレーターと被験者実験とによって検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
D65標準光源 プラス 1波長のLED光の組み合わせを色覚バリアフリー照明光とした場合、LED光として赤色LEDが有効であることを見出した。いわゆる赤緑色盲スクリーニングテスト用に作為的な配色パターンである色相が連続して変化するパネ石原式検査色票の正答率が80%以上であったことに加え、パネルD-15テストにおいても、大きなエラー(diametrical crossing)の回数が、本来(昼光色環境下)よりも大幅に減少した(10%程度に減少)。 パネルD-15テストにおける結果は、一般色覚者では観察できない現象であった。 CIExy色度図、L*a*b*色空間で検討した結果、色覚障がい者は明度情報(L*値)の小さな差を認識する能力が一般色覚者よりも高い、と推測される。 波長が異なる2種類のLED光のみを環境照明光として使用する光学系については、対象物の位置での照度を300 lxとし、3種類の組み合わせを見出した。色覚シミュレーターによって有効性を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度Ra値を改善する観点から、波長が異なる2種類のLED光のみを環境照明光として使用することを考え、LED光の組み合わせについて、色覚シミュレーターによって有効性を確認した。最終年度である平成28年度は、この方式の光学系について、どのLED光の組み合わせが石原式検査色票での正答率向上に有効か、また、パネルD-15テストでの結果はどのようになるかを調べ、実用的な光源の開発に成功、として学会などで発表を行う。 D65標準光源 プラス 1波長のLED光の組み合わせの方式については、前年度に有効性が確認された「赤色光」に、異なる波長のLED光を1種類加え、上記と同様の研究を行う。 光学系の効果については、最終的に色覚障がい者による被験者(検証)実験で行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究開発では、型、強度が確な色覚障がい者(被験者)の協力が不可欠である。しかし、ここ10数年、学校での色覚検査が廃止されたため、自分が色覚障がい者であるか否かを知らない人も多い。また、就職不可能な職業が限られてはいるものの、差別を恐れ、自分の色覚を語らない人、また、知らない人も非常に多い。前年度はこの理由により、被験者実験を殆ど行えず、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
そこで、平成28年度は、引き続き機縁法により遠方からの被験者の協力を考えており、その旅費・謝金などに使用する計画である。
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