経頭蓋磁気刺激法を用いた近年の研究により、等尺性筋収縮時における非呼吸筋(手指や下肢)の皮質脊髄路興奮性(=運動誘発電位(MEP)による評価)が随意呼吸によって増大することが報告されている。本研究の初年度に、動的運動(自転車運動)においては、随意呼気による下肢筋(外側広筋)MEPの増大が、低強度(30%VO2max、24分)では生じたが、高強度(80%VO2max、24分)では生じなかったことを、一般健常者(n=7)を対象にした実験で明らかにした。最終年度は、その原因として、呼吸筋疲労は影響しないこと、そして、下肢筋の活動レベルに依存する可能性があること、を等尺性収縮課題により確認した実験データを報告した(運動生理学会発表)。さらに、当該年度においては、持久的鍛錬者(自転車選手、n=8)を対象に、高強度(70%VO2max)の自転車運動(30分)時の外側広筋MEPに随意呼気が及ぼす影響を検討した。その結果、1)全体として、初年度の非鍛錬者同様、随意呼気による外側広筋MEPの増加は認められなかった、しかしながら、2)自然呼吸条件では、MEPは前半(10分)に比べて後半(10分)で有意に低い値を示したのに対して、随意呼気条件のMEPに前後半の差は認められなかった。3)前半および後半のMEPに呼吸条件間の差はなかった。先行研究では、疲労困憊に至る高強度自転車運動時に下肢筋MEPが低下する可能性が報告されている。したがって、本研究の結果は、随意呼吸は高強度運動時に生じるMEPの低下(中枢性疲労)を抑制する作用を有している可能性があることを示唆する。また、持久性鍛錬後の換気応答には学習的要素が関与する(体力医学会発表)。よって、持久的鍛錬者(上述の自転車選手)では呼気と下肢運動の同期が下肢MEPに影響する可能性を予想したが、同期時と非同期時のMEPに有意差は認められなかった。
|