研究課題/領域番号 |
26350710
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
梅澤 秋久 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (90551185)
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研究分担者 |
鈴木 直樹 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (60375590)
村瀬 浩二 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (90586041)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ケアリング / ケア / 体育 / 意味生成 / 教育学的ケアリング |
研究実績の概要 |
本研究ではポストモダン社会での学校体育における教育学的ケアリングの地平を明らかにすることを目的としている。 近年、ケアを希求する子どもが増加の一途であるが、現在進行している学校改革はディシプリン準拠型のカリキュラムであり、むしろケアの視点を削いでいる。それは、産業社会時代の「発達としての教育」の再燃であるが、ポストモダン社会では「生成としての教育」を実践する学校が求められているのである。ケアの先駆者であるノディングズとメイヤロフのケア/ケアリングを再検討した結果、多様な他者と「差異中の同一性」によるかかわりあいが希求されており、その関係こそが教育学的ケアリングであることが明らかとなった。それらの考察をもとに、ポストモダン社会における体育については次のような考察がなされた。 「いま―ここ」に生成されるスポーツ/運動世界に没頭し、意味生成を誘発する授業デザインが必要となる。そのような「生成としての教育」に依拠する学校体育と教育学的ケアリングは関連が高いことが明らかとなった。 すべての子どもがスポーツ/運動世界に没頭できるようにするためには、モノ自体にケアのメッセージを込めることが肝要である。加えて、他者である教師やクラスメイトによる心を砕いた専心的なケアをすることが重要となる。また、他者の「憧れに憧れること」もまたケアリングにおいて重要である。学校体育における教育学的ケアリングの地平は、自己と他者とスポーツ/運動世界との三位一体のやわらかな関係構築のプロセスそのものである。 以上の研究成果は、日本女子体育連盟「学術研究」(2015.3)原著論文として掲載されている。次年度以降は、教育学的ケアリングの実証的研究を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度は、理論研究を推進する計画であった。 教育哲学分野では「教育学的ケアリング」の理論は一般的になりつつも、教科教育学、特に体育科教育学の分野においては新規性の高いものである。その理論研究において、学術誌の査読付き原著論文として予定よりも早くまとめられたのは大きな成果であろう。 一方、国際比較のターゲット及び、ケア研究者を多く抱えることから先行研究対象国と捉えていたアメリカの体育研究では、インクルージョン以外の方法以外の新規性を見出すことはできなかった。そのことは、平成27年度以降の実証研究の具体的方策をゼロから創出することであり、研究2年目以降については1年目のような飛躍的な成果を挙げにくくなったと考えられる。 以上のことから、(2)おおむね順調に進展している と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、実証研究開始の年度である。複数の研究協力校でのケアリング体育を、いくつかの指導方略に分けて実践し、その成果を検証していく。 一つは、「インクルーシブ体育におけるケアリング関係」の研究である。「ケアリング関係は、他者を自身の一部と捉える」という初年度の研究成果から、通常学級における発達障害児と健常児とのかかわり合いに焦点を絞って実践研究を進めていく。また、発達障害児の変容だけでなく、教師ー学習者関係、学習者ー学習者関係、学習者ースポーツ/運動関係といった多様な関係で紡がれる「学級空間」の変容を質的研究によって考察していく。 もう一つは、「運動嫌いと教育学的ケアリング」の研究である。ディシプリン準拠型の体育から離れ、運動世界への没頭を目指した授業において、様々な到達レベルの学習者同士のケアリング関係の変容を考察する実践研究である。「他者の憧れに憧れる」ことでの運動世界への誘い、運動世界の開拓を、カード構造化法によって考察していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者のうち1名が海外の先行研究視察に行く予定であったが、校務が入り実現できず、次年度に延期したため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、教育学的ケアリングの実証研究になるため、授業研究機材の購入を進める。具体的には、授業を撮影するビデオカメラ、学習者が授業で活用するタブレット端末などである。 また、次年度の実践研究に活かすため、欧州のケア先進国の視察を行うため、その旅費および通訳の謝礼などに研究費を使用する。 さらに、実証研究を進めるにあたり、学校現場の教員との会議費等で研究費を使用する。
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