研究課題/領域番号 |
26350717
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
廣兼 志保 島根大学, 教育学部, 教授 (00234021)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 体育ダンス / ナチュラルダンス / Margaret H'Doubler / 1920年代 / ウィスコンシン・アイディア |
研究実績の概要 |
本研究は大正15(1926)年に荒木直範(1894-1927)がアメリカ合衆国への留学時に視察したウィスコンシン大学のMargaret H'Doubler(1889-1982)のダンス教育の理論と教材を明らかにし、荒木の実践とH'Doublerの実践との比較を通してダンス教育の理論と教材の取捨選択の様相を明らかにする。 平成29年度はウィスコンシン大学公文書館を訪問し、1920年代から30年代初頭に H'Doublerが実践したダンス教育の記録、H'Doublerが組織し指導した学生ダンスグループであるOrchesisの活動に関する新聞報道記事、1920年代にウィスコンシン大学ダンス学科に在学していた卒業生へのインタビュー記録などを収集し、史料の読解を通してH'Doublerのダンス教育実践の様相を明らかにした。その結果、前年度までに明らかにされたH'Doublerのダンス教育の特徴である実践と理論の往還や主観的な認知と客観的な分析の往還は、当時のウィスコンシン大学が掲げていた研究・教育方針(通称「ウィスコンシン・アイディア」)をダンス教育の分野で体現しているとわかった。また、ウィスコンシン・アイディアにおいて重視されている大学の知の地域社会への還元も、Orchesisの活動などにより積極的に実践されていたことがわかった。 このような諸科学の理論を基盤とした体育実践や知の地域社会への還元は、帰国後に荒木が結成した大日本体育遊技研究会の活動方針と共通点があると思われる。 そこで平成29年度の調査結果から、以下の研究仮説を新たに導き出すことができた。すなわち、「H'Doublerから荒木への影響は、ナチュラルダンスの理論や教材よりもその深層にある諸科学の理論を基盤とした体育実践や知の地域社会への還元といった理念にあるのではないか」という仮説である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で記述したように、一次史料を収集できたことや、それらの資料に関する専門的な助言を得たことにより、新たな観点から史実を見直すことで、これまでの研究成果をさらに推進するためのより深い考察が得られ、研究の新たな展開を促す研究仮説を構築することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
①平成28年度に発表した研究成果『Margaret H’Doubler(1889-1982)のダンス教育における音楽の学習内容と指導方法~“A Manual of Dancing:Suggestions and Bibliography for the Teacher of Dancing(1921)”からの考察~』に、平成29年度の資料収集により明らかになった史実等を加筆して論文化し、学会誌に投稿する。 ②「研究実績の概要」で記述した、新たな研究仮説を検証するために、荒木が欧米に留学するにあたって、どのような経緯によってウィスコンシン大学を視察先に選択したのか、また、荒木が帰国後に結成した大日本体育遊技研究会の活動方針と「ウィスコンシン・アイディア」の共通点は何か、を明らかにする。可能であれば、荒木の欧米留学に関する未発掘の資料も収集し、考察の根拠を確実にして、研究課題の次なる展開へとつなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、H'Doublerが提示した教材の復元と映像資料化を実施しようとしていた。しかし、ウィスコンシン大学での一次資料の収集の結果、新たな研究仮説を構築することができ、その仮説にしたがって史実の解明を優先するべきであると考えたので、平成29年度も教材の復元と映像資料化を見送ることにした。そのため、映像資料化に必要な人件費と謝金を次年度に繰り越すこととした。 「今後の推進方策」の①及び②を実行するために、当初の研究計画で配分していた研究費を使用する。
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