本研究の目的は、大正8(1919)年から昭和11(1936)年まで日本の体育指導者達が欧米の体育ダンス教材を我が国に紹介する過程で教育理論と教材がどのように取捨選択されたかを明らかにすることである。本研究では大正15(1926)年に荒木直範(1894-1927)が紹介した体育ダンス教材のうちナチュラルダンスの事例を取り上げた。荒木がアメリカ合衆国で視察したウィスコンシン大学のMargaret H'Doubler(1889-1982)のダンス教育の理論と教材を明らかにし、荒木の実践との比較から、教育理論と教材の取捨選択の様相を明らかにした。平成30年度には以下の①②を実施した。 ①平成28年度に発表した研究成果『Margaret H’Doubler(1889-1982)のダンス教育における音楽の学習内容と指導方法~“A Manual of Dancing:Suggestions and Bibliography for the Teacher of Dancing(1921)”からの考察~』に、平成29年度の資料収集により明らかになった史実等を加筆して論文化した。 ②「H'Doublerの影響は、理論や教材よりもその深層にある諸科学の理論を基盤としたダンス教育の実践や知の地域社会への還元といった姿勢に表れているのではないか」という仮説の検証に取り組んだ。その結果、荒木直範は東京YMCAの助力によってシカゴ大学に留学していたことがわかった。当時、シカゴ大学は、ウィスコンシン大学と同様に、大学拡張を通して大学の知の地域社会への還元を積極的に行っていた。シカゴ~マディソン間は比較的近距離にあるため、荒木は当時先進的な実践で有名であったウィスコンシン大学マディソン校を訪れたのではないかと推察できた。 今後は、資料の補充を進め、②で明らかになったことを発展させて学会で発表し論文化したい。
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