本研究では、スポーツ実践における人間の生の経験が人間的な存在への問いと不可分であるという認識に立ち、児童・生徒の「心と体」の問題の解決に向けて、スポーツを教材とする体育に何ができるのか、その人間形成の可能性について検討した。具体的には、スポーツにおける「他者との交流」や「コミュニケーション」から得ることのできる人間の多様な生の経験を、体育という人間形成の営みに取り込むことにより、児童・生徒が直面する「心と体の問題」解決への方策を提示しようとした。そのために、3年の期間を設けて人間的な実存レベルでの問いかけを哲学的人間学の立場から行いながら、「スポーツにおける人間の生の経験」の身体教育への応用について検討を行ってきた。最終年度である平成28年度は「いじめ」や「非行」の被害に直面する児童・生徒に対して、体育に何ができるのかということを考察した。平成28年度は、9月20日から24日かけてオリンピア(ギリシャ共和国)で開催された第44回国際スポーツ哲学会において専門的知識の提供を受け、11月15日から18日にかけてエスファハン(イラン・イスラム共和国)で開催された第8回スポーツの社会科学に関する国際会議で研究成果の一部を公表した。平成29年3月には研究成果全体のレビューを本研究の研究協力者(海外共同研究者)であるレンク博士に受けた。本研究では研究期間全体を通じて「自己の心身を一体として捉える」ことや「他者の体や心への気付き」について明らかすることができた。また、児童・生徒の「心と体」の問題の解決に向けて、スポーツを教材とする体育に何ができるのかを検討した結果、スポーツ実践における「他者との交流」や「コミュニケーション」から得られる多様な生の経験を、体育という人間形成の営みに取り込むことにより、児童・生徒が直面する「心と体の問題」解決への方策を提示できることを示唆することができた。
|