本研究は、登山者のリスク認知と登山装備の関係について明らかにすることを目的とした。調査場所を鹿児島県と宮崎県の県境に位置する韓国岳周辺とし、山頂まで登った登山者を対象に調査票実施し1027件の回答を得た。 回答者の性別では男性が約6割と多く、60歳以上が3割を超えた。登山への備えとして天気予報を確認した者は9割を超えていたが、山岳保険への加入率は3割を下回っていた。また、タオル、携帯電話、ザックなどの所持率が高かった一方で(いずれも9割以上)、登山の必需品として紹介されることの多いヘッドライト、地図、コンパスなどでは5割を下回った。 「擦り傷などの軽い怪我」「雨でずぶぬれになる」などのリスクについては半数以上の回答者が登山前に意識していたと回答しており、発生確率も高く見積もられていた。また、リスクによる被害の大きさに対する想定では、直接的に身体に痛みなどの被害を受けることが想定される「新燃岳の噴火」「登山道からの滑落」「骨折などの重い怪我」「落雷に遭う」などで高い被害が想定されていた一方で、「自力下山できなくなる」「空腹で動けなくなる」「疲労で動けなくなる」など、山中で身動きが取れなくなる状況に対する被害は少なく見積もられていた。リスクの確率と被害見積もりを掛け合わせたリスク総量の見積もりでは、「霧で視界がなくなる」、「登山道から滑落する」、「骨折などの重い怪我を負う」で高く、「ビバークすることになる」、「空腹で動けなくなる」などで低い値となった。 これらリスクに関わる認知や評価と装備品の数との間には直接的に明確な関連は認められなかったが、登山者としての経験や知識、あるいは関与度が媒介変数として関連している可能性が示唆される結果となった。この結果から、登山の危険性を喧伝するリスクコミュニケーションは、登山者の装備の充実に必ずしも寄与しない可能性が示唆された。
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