本研究の目的は,中学期から大学期に至るスポーツ選手のパーソナリティおよび心理的競技能力の発達プロセスを危機経験(悩んだり努力したりする経験)と心理社会的発達課題の達成の影響を加味しながら明らかにし,「スポーツ発達心理学」の構築に向けた知見を得ることである. この目的を達成するために,前年度までに中学・高校・大学選手を対象者としてデータの収集・整備・分析を行ってきた.本年度はまず,昨年度までの分析結果のうち,男子選手の心理的競技能力の発達に影響する心理社会的発達課題が学校期によって異なることを示した結果を国際学会で発表した.次に,どのような事象での危機経験がスポーツ選手のパーソナリティ(自我発達)および心理的競技能力の発達に影響するのかを学校期ごとに詳細に分析した.その結果,パーソナリティならびに心理的競技能力の発達に影響する危機事象は,学校期によって異なる部分があることが明らかにされた.さらに,パーソナリティと心理的競技能力との関連を分析した結果,中学・高校選手では両者の関連はみられないが,男子大学選手では両者が関連することが明らかにされた.これらの結果より,スポーツ選手のパーソナリティと心理的競技能力は学校期ごとに異なる危機経験や心理社会的発達課題の達成の影響を受けながら発達し,さらに大学期ではパーソナリティと心理的競技能力とが関連しながら発達するようになる可能性があると考えられた. 本研究は,スポーツ選手の心理的課題を発達論的観点から捉え,発達段階ごとに検討することを前提とした「スポーツ発達心理学」の構築に向けた研究と位置づけて実施したが,本研究の結果はこうした学問領域構築の必要性や可能性を示唆するものと考えられた.
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