平成28年度に実施した実験3の目的は,急速照準課題の運動制御方略が心理的プレッシャー下でどのように変化するのかを調べることであった。実験参加者(大学生31名)に利き腕で把持したスタイラスを25cm前方の直径2cm,高さ0.5cmのターゲットを狙って,できる限り速くかつ正確にタッピングする急速照準課題を行わせた。練習40試行の後,ノンプレッシャー条件とプレッシャー条件で10試行ずつ課題を行わせた。両条件の順序は実験参加者間でカウンターバランスを取った。プレッシャー条件では3名の観衆が観察する中で課題を行わせ,動作速度と動作の正確性が基準に満たない場合は実験データが使えなくなるため,基準を満たすように教示した。プレッシャーの操作チェックとして,各条件の課題遂行前に状態不安を測定し,各条件の課題遂行中の脈拍を測定したところ,プレッシャー条件がノンプレッシャー条件に比べて有意に高い状態不安(p<.001)と平均脈拍数(p=.001)を示した。また,動作全体の動作時間はプレッシャー下で有意に長かった(p=.042)。500Hzで行った動作解析から加速度を算出し,最初の加速度ピーク値までをフェーズ1,それ以降をフェーズ2として各フェーズの動作時間を比較した結果,プレッシャー下ではフェーズ1に有意な変化が認められなかったが,フェーズ2では有意に増長するという変化が認められた(p=.038)。フェーズ1は約80msであったことからフィードフォワード制御のみが行われ,フェーズ2はフィードフォワード制御とフィードバック制御の両方が行われているとみなすことができる。したがって,プレッシャー下で増長した動作時間は,フィードバック制御がプレッシャーによって増加したことが原因であると考えることができる。
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