スポーツ事故に伴う賠償責任(民事責任)の発生リスクに対するマネジメントを、法的な視点に基づいて講じるための知見を獲得することが本研究の課題である。そのためまず、「危険の引き受けの法理」の適用を明確に否定した、フランス破毀院(司法系統における最上級の裁判所)による判決(2010年11月4日)を検討した。その結果、同国においては、物の所為によって損害を受けた場合には、同法理が適用されて加害者が免責されることは無いと、判示されたことを明らかにした。次に、この判決をきっかけに制定された「文化・スポーツイベントの運営を支援するための2012年3月12日の法律第2012‐348号」を翻訳した。加えて、同法が政府に対してCNOSF(フランスオリンピック・スポーツ委員会)との協議のもとに、策定することを義務付けた「スポーツ領域に関する民事責任制度についての今後の展望と焦点」に関する報告書の内容について、検討した。この報告書は正式にはまだ議会に提出されてはいないが、CNOSF内に設置されたワーキンググループの手によって作成された、報告書の草案を入手したものである。その結果、今後フランスにおけるスポーツ領域における民事責任制度を安定させるためには、スポーツ領域に特有の責任体制を構築すること、および被害者救済のための保険制度の拡充が必要がある、との提言がなされる可能性があることを確認した。また本年度は、日本におけるスポーツ事故関連の裁判例との比較検討を行い、スポーツ活動中の事故リスクに対するマネジメントを図るうえで、特に被害者救済のための保険制度の拡充が必要であることを示唆した。
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