研究課題/領域番号 |
26350769
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研究機関 | 佐世保工業高等専門学校 |
研究代表者 |
中島 賢治 佐世保工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (40311112)
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研究分担者 |
廣瀬 圭 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (50455870)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ラグビー / 動力学解析 / 慣性センサ / 運動評価 / コンタクトフィットネス / ブレイクダウン / 関節トルク / タックル |
研究実績の概要 |
平成27年度の報告において、人体に衝撃力などの外力が加わる場合、ウェアラブル慣性センサによる運動計測が困難になることを指摘した。これを解決するため、身体各部に装着した11個の慣性センサによる運動計測データ、およびフォースプレートによる衝突外力計測データ、を入力とする逆動力学解析理論を構築し、データ処理プログラムを開発した。 平成28年度は、おもにプログラムにおける各種フィルタリング係数の調整を行い、計算結果の確からしさについて実験動画と比較、動作とデータの整合性について検証を行った。計測対象の試技は、ラグビー選手がボールを持って前進し、ヒットダミーに衝突する、単純なブレイクダウン動作である。この実験の目的は、逆動力学解析によって選手運動量の計測と評価が可能であるか否かを判別するためである。平成27年度までに、動力学解析のための剛体リンクモデルを規定し、並進と回転の運動方程式を導出、運動方程式の数値解法について試行した。本研究の場合、逆動力学解析の基礎式となる運動方程式の中に複数の外力が含まれるため、それらが未知数となり方程式の同定が困難となる。ここで、外力とはラグビー選手の上半身にかかる衝撃力と、両足が地面から受ける地面反力である。当年度は、数値解法における各種のデータフィルタリング手法を試行錯誤して、ラグビー選手の運動計測に適切なフィルタリング係数を決定した。さらに、実験データは4回分の試技について計測が成功しており、それらのデータについて、人体各部の関節にかかるトルクを算出した。計算結果について、コーチングにおける模範動作としての観点から検討した結果、①身体各部の関節トルクは、コーチングの際に選手に説明する上で理にかなったデータが定性的に得られていること、しかし、②各関節トルクは、本当に各関節部が発揮している数値が出ていないという定量性に欠けていること、がわかってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記したとおり、逆動力学解析に基づく関節トルクの評価を主軸として、ラグビー選手の運動量を数値化する手法については限界があることがわかってきた。 第一の理由として、慣性センサによる運動計測で関節トルクを推定する場合、関節トルクは、加速度変化が大きな四肢部分で大きく、加速度変化が少ない体幹部分で小さく評価される結果となった。具体例で説明すると、たとえば、スクラムなどでラグビーの基本姿勢を維持してプッシュする場合、プロ選手であれば、1人当たり約100kgf以上、8人合計で1tonf以上の力を発生していると言われているが、身体各部分の加速度変化はほとんどなく、外的な位置や速度変化の計測データのみで、この内在的な力を推定することは困難である。要するに、静的に見える動作で発揮している関節トルクについては、慣性センサによる運動計測では測れない。 第二の理由として、静的動作で発揮している関節トルクを逆動力学によって算出する場合、他者と接触している体の各部分にかかる外力、両足にかかる地面反力のすべてを計測しなければ、推定することはできない。それらすべてを計測しようとすれば、本来の目的において、実際のゲームに利用可能な選手の運動量計測ツールを開発するとの初期目標から離れてしまうため、逆動力学解析による関節トルク推定を用いた運動量評価は困難であるとの結論に至った。 しかし、逆動力学解析による関節トルク推定は、選手に対しテクニカルなコーチングを行う際に、効果的な定性的データを得ていることがわかった。たとえば、さまざまなスポーツにおいて、外部からの衝撃に対して受動的に姿勢を保持し正確なプレイを行うには、体幹の強さが必要であるということは感覚的にわかっていたが、その強さが、実際には数値データ上でどのような変化として現れるかについて、選手への説明を補足する数値データを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ウェアラブル慣性センサを用いた運動計測により身体各部にかかる関節トルクを算出するには、選手の身体と外部(他者や地面)の接触箇所にかかる反力をすべて計測しなければ正確に評価することはできない。 本研究の初期目標に立ち返り、実際のゲームにおいて選手が発揮している運動量を予測するには、なるべく少ないセンサ個数(体幹部に1~2個)によって計測することが必要で、動力学的なアプローチよりもむしろ、科学的かつ統計力学的なアプローチが有効と考える。現在考案中の評価方法は、①体幹部の加速度変動により得られる予測運動量、②脈拍数、③最大酸素摂取量を時系列かつ統計的に整理し、選手の体力消耗量を予測する実験式を得ることである。①については、本研究により得た慣性センサによる運動計測のノウハウを応用することができる。②について、心拍数は体力の消耗状況を反映していると同時に、心理的な状況も反映していると考えられる。③について、最大酸素摂取量は純粋な体力の消耗状況を反映しており、慣性センサで計測できなかった静的なプレイにおけるエネルギー消費量を予測できる。さらに、②と③を統計的に処理し相互相関特性を調べれば、身体変化に現れる体力消耗の中で、目に見えない心理的なストレスも把握できるかもしれない。②と③については新たな計測機器が必要となるため今後の科研費で申請していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度まで研究の継続を申請したため。
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次年度使用額の使用計画 |
日本機械学会年次大会への出張旅費として支出する予定。
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