知的障害のある児童生徒は障害特性や社会環境要因により運動スキル習得の機会が限られている。このことが運動不足を助長し,低体力,肥満,骨粗鬆症といった健康上の問題とともに,運動スキル発達の遅れがその後のスポーツ参加をさらに難しくしている。特別支援学校で行われている各教科「体育」および「保健体育」は重要な運動学習の機会であり,指導内容・方法の一層の工夫・改善を進めていく必要があると考える。 知的障害児を対象とした運動スキル向上のための介入的研究は極めて少ない。これまで,特別支援学校の体育および保健体育授業に関する学習指導案の公開状況,特別支援学校教員からみた児童生徒の運動スキル向上に関する体験的実感,縦断的にみた運動スキル向上の実態等を調査するとともに,蹴る,投げる,走る等の運動スキルに関する介入的研究を実施してきた。 本年度は,まず,捕る運動スキルについて介入的検討を行った。捕る動作は投げる動作に比べると運動遂行の時間が外的に制限されるとともに,状況に対応しながら動作しなければならないという難しさがある。特別支援学校中学部男女生徒18名を対象に,約4週間の中で10回のトレーニングを実施した。内容は体育館のステージ上を転がってくる,または弾んでくるボールをステージの下で捕球する,床上を転がってくるソフトバレーボールを上から押さえ込む,ドッチビーをキャッチする,紅白玉をキャッチする等である。トレーニング後には捕球成功率の向上と捕球動作の改善がみられ,丁寧に指導することにより捕るスキルの質的向上を図ることができると考えられた。 つぎに,跳び箱での開脚とびについて介入的検討を行った。同様に特別支援学校中学部男女生徒17名を対象とした。マット上でのわに歩き,うさぎ跳び,川とびなどのトレーニングを行ったところ,跳び箱の観察的動作評価得点が向上し,学習可能性を確認することができた。
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