研究実績の概要 |
最終年度は、クロール泳における個人内多様性である呼吸の有無が水中ストロークに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。一流小学生スイマー7名を対象とし、100m自由形全力泳をプール側方水中窓よりハイビジョンカメラ(1440x1080 pixel,29.97fps)で撮影した。キャリブレーションは0.5m毎に目印を付けた1.0mのロープに錘をつけ水面から下垂し、レーンライン上にて水平方向に2.5mずつ移動して行った。呼吸側の手部の入水から離水までをNotePlayer2にてデジタイズし、2次元DLT法にて実座標を得た。呼吸の有無による軌跡特性の平均値比較では、入水-到達角を除き有意な差は認められなかった。これは、学童期に専門距離によるストローク特性の形成が始まっているものと推察された。呼吸時にプル軌跡が後方に滑る現象が見られ、減速の要因であると考えられた。また、呼吸時の入水点からの最大到達角が有意に小さかった。これは呼吸動作によりダウンスイープが抑制されることが関与するものと考察された。 3年間の研究を通じて、泳動作の共通性と多様性を探求することを目的に研究を行った。その結果、ジュニアからシニアまで泳速度が年齢で指数関数近似できる共通性が認められたが、プル動作、リカバリ動作、左右の腕のコーディネーション動作に多様性が見られた。個人内のストローク多様性の一つである呼吸の有無では、呼吸動作が加わることによりストローク時間が約0.03秒増大し、泳速度の減少を招くことが明らかとなった。さらに呼吸時にプル軌跡が後方に滑る現象が減速の要因であることが示唆された。これらを踏まえた部分の性質の単純な総和にとどまらない全体としての創発的な泳動作の変革が期待される。
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