本研究は年中行事など、いわゆる“伝統”的な文脈における「身体」、および近代以降「体育文化」を通して否定され/受け継がれてきた日本人の「伝統」的な身体を対象とし、その継承や変容過程を検証し「日本人」の身体を考察する事を目的とした。そもそも年中行事とは前近代の価値観が保持される空間であり継承される諸要素は“伝統文化”として位置付けられる。本研究では特に「裸祭(岡山県岡山市会陽習俗等)」や「喧嘩祭(岡山県真庭市喧嘩だんじり等)」など「裸や暴力」とも表現され「陋習」とも揶揄される前近代的な要素を含む年中行事に注目し、参与観察を通してそこに受け継がれる「身体への期待とその眼差し」を紐解くことになった。また、明治期以降学校空間において近代国家建築の途次に、身体を矯正しながら、育まれてきた身体にも注目し、近代化以降日本人の身体が西洋と前近代の価値の狭間で如何に混淆され、現在我々が「日本的」と評する身体観が形成・位置づけられていったのかを理解することも大きな目的であった。本研究では特に学校における運動部、応援団という存在に注目し研究を展開した。たとえば応援団とは明治期に登場して以来、常に「前時代的」な価値を堅守する傾向が強く、その変化・変容は非常に緩やかなものと言える。彼らはいまだに“バンカラ”文化と呼ばれる明治期に起こった和様折衷文化の色彩を色濃く遺しながら独自の文化を継承している。したがって彼らは学校空間で育まれ受け継がれる「日本の身体」を抽出するには非常に適した対象となった。 研究結果として「前近代」から「近代」という時代に求められ、近代という価値に一部否定されながらも「文化財や学校文化」として意味を変容させながら逞しく活きずく姿と、そこに遺る「日本人の身体観や身体活動」の抽出に成功した。これらはすでに学会発表や研究論文として一部発表されており、広く社会に還元され始めている。
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