最終年度にあたり、これまでに国内で収集し切れなかった1930~1980年代の米国フィジカル・カルチャー雑誌(以下PC誌)および関連資料の一部を、コロンビア大学図書館において調査・閲覧し、最終的な分析を終え、その成果を学会シンポジウムで発表し、論考にまとめた。また、研究期間全体を通してあきらかになった成果は以下の通りである。 ①1930~50年代にかけて、PC誌における男性身体の理想はセクシュアリティ化されておらず、さまざまな欲望の対象として共有されていた。この時期においては、まだ異/同性愛というセクシュアリティの腑分けが明確化されておらず、従ってホモソーシャル/ホモセクシュアルな欲望の分断も曖昧であった。 ②1950~60年代にかけて、PC誌は非セクシュアリティ要素(同性愛と混同される要素)を急速に払拭し、ヘテロセクシュアリティ化を始める。そして、こうしたヘテロノーマティヴな男性性(ホモソーシャルな理想)への変化を促したのは、この時期に進展した“同性愛者”のアイデンティティ形成とそのカテゴリーの可視化による、逆説的なヘテロセクシュアリティの自覚化であった。 ③70年代以降の性的マイノリティ権利運動および80年代のエイズ危機は、ともにその社会的な広がりと影響力の大きさからカウンターとしてのホモフォビアを苛烈化させ、結果としてPC誌は意図的にヘテロセクシュアル表象を強調していくことにつながった。
とくに①の事実は、E.K.セジウィックが示唆した「ホモソーシャル連続体」が、特定の歴史や環境の配置によっては確かに存在し得ることを示す、重要な事例といえる。
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