H28年度の課題として、これまでにヘルメット同士の衝突で確認してきたひずみゲージによる頭部作用力を、対人による実際の衝突時における頭部作用力を確認することとした。しかし、H27年度の課題であったヘルメットの複数部位でのひずみゲージによる頭部作用の確認がH28年度に遅れていた。複数回の実験を重ねたが、ヘルメットと模擬頭部の間の密着性を解決できなかった。この理由として、木で作成した模擬頭部の限界と考える。また、当初に見込んでいたひずみゲージの無線化が間に合わず、H28年度の課題を確認することは達成できなかった。この課題達成には3Dによる模擬頭部作成が望まれることが分かった。 そこで、加速度計による実際の衝突時における頭部作用力を確認した。方法として、アメリカンフットボール選手は加速度計とジャイロセンサを配置したマウスガード(i1 Biometrics Inc)を口腔内に装着し、通常通り練習や試合を行った。マウスガードが衝突による衝撃を感知すると、アンテナを通してコンピュータに衝突時の各種測定値がリアルタイムで送信される。測定項目は衝突時の頭部直線加速度、頭部角加速度、脳振盪閾値、衝突部位、衝突数とした。その結果、頭部衝突数において、1名の選手で1回あたりの練習時と試合時の衝突数はそれぞれ14.3回と15.7回であった。これは米国大学選手の練習時における頭部衝突数と比べて非常に多い。また、頭部衝突時の平均最大直線加速度は、練習時19.04±10.1 G、試合時20.82±12.1 Gであることを国内では我々がはじめて報告した。また試合時は練習時よりも有意に高い頭部作用を受けていることが明らかとなった。しかし課題として、頭部衝突データ数は限定的であり、脳振盪を実際に起こしたデータを含んでいない。したがって、脳振盪が起こる危険を示す脳振盪閾値の解明には至らなかったことは今後の課題と考える。
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