研究課題/領域番号 |
26350817
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
眞鍋 康子 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 准教授 (60467412)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | マイオカイン |
研究実績の概要 |
近年、骨格筋から分泌される生理活性物質(マイオカイン)が、運動による健康の増進効果の一端を担っている可能性が指摘されている。本研究では、マイオカインの中でも特に筋収縮によって分泌が調節される新規マイオカインを定量プロテオーム法で同定し、その分泌の機序、および生理的役割を解明することを目的とした。平成26年度は筋収縮によって分泌が調節されるマイオカインを同定するために、定量プロテオーム解析を実施した。申請者がこれまでに構築した培養骨格筋の収縮装置を用いて、分化させたC2C12細胞を電気的に一定時間収縮させた細胞の培養上清と、対照群として収縮させなかった細胞の培養上清をそれぞれ回収・濃縮し、定量プロテオーム解析(iTRAQ法)に供し、収縮によって増減のあったタンパク質の同定を試みた。プロテオーム解析により得られたデータは、バイオインフォマティクスによる構造解析に供し、分泌のためのシグナル配列を有しているものを(SignalP; http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)で選択した後に、膜貫通領域(疎水領域/αへリックス構造)が1カ所以下であるものをTMHMM; http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM-2.0/)で選別し、これらの中から、核・ミトコンドリア・小胞体への局在配列を持たない分子 をTarget P; http://www.cbs.dtu.dk/services/TargetP/)を用いて選択した。さらに、選択されたタンパク質が、実際に分泌されるかを、培養上清をウェスタンブロッティングに供することで検証した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
定量プロテオームの結果から、収縮により分泌が1.2倍以上増加したタンパク質は124個、0.6倍以下に分泌が減少したものが24個選択された。これら選定したタンパク質の中から、実際に分泌される構造を有しているものを選定するためにバイオインフォマティクスによる構造解析 (Signal P, TMHMM, Target P) に供した。その結果、最終的に分泌タンパク質として選定されたタンパク質は、1.2倍以上増加したもので14個、0.6倍以下に減少したものでは2個であった。 これらは、あくまでも網羅的解析とコンピューターによる in silico解析であるため、次にこれらが実際に発現しているか、また分泌されるかをウェスタンブロッティングで検証した。解析の対象となったものは、市販抗体が入手できるものに限定したため1.2倍以上増加したもので10個、0.6倍以下に減少したものでは1個となった。まず、選定されたタンパク質が実際に骨格筋細胞で発現しているかをC2C12細胞のLysateを用いて検証をした。分子量が500 Kdaのタンパク質と、分子量が6 Kdaのタンパク質は、ウェスタンブロッティングでの検証が難しく、存在自体を確定する事ができなかった。一方、残りの9個のタンパク質に関しては、目的とされる場所にバンドが確認され、骨格筋細胞で発現している事が明らかとなった。次に、これら9個が実際に分泌されるか、またその分泌が収縮によって調節されるかの検証を行った。分化させたC2C12細胞は、電気的な刺激を与え1時間収縮させた培養上清を回収した。培養上清は、遠心濃縮フィルターにより濃縮し、ウェスタンブロッティングに供した。現在、7個の解析が終わっており、全てのタンパク質で収縮の有無にかかわらず培養上清に分泌される事が明らかとなっている。
|
今後の研究の推進方策 |
H26年度までに7個のマイオカインの存在を明らかに出来たが、それらは、収縮により調節を受けないタイプのマイオカインであった。まだ解析していないタンパク質について、引き続き解析を続ける予定である。H26年度はこれまでの5倍以上の検出感度を有するとされる質量分析機器であるOrbitrap(Thermo Scientific)を用いての検証を行った。しかし、プロテオームの解析は、使用する機器によってその結果が大きく異なることもある。そこで昨年度とは異なる装置であるQstar(AB SCIEX)を用いてプロテオーム解析を実施する予定である。昨年度検出されたタンパク質と異なるタンパク質が検出された場合は、骨格筋を用いた発現の検証と、収縮によって分泌が調節されるかを検証する。収縮によって分泌が制御されるマイオカンが発見された場合は、その遺伝子を骨格筋からクローニングし骨格筋特異的なサブタイプの存在を確認していく。また、タグをつけた遺伝子をin vivo電気穿孔法で生きたマウスの下肢骨格筋に過剰発現させて、筋収縮前後におけるタグつきマイオカインの血中の増減を検証したり、全血液中に占めるタグつきマイオカインの比率を検証し、筋から分泌調節されたマイオカインが血液を介し遠隔臓器に作用する可能性があるかを検証する。 また、検証したいずれのマイオカインも収縮で明確な分泌調節が見られないことも考えられる。そのような場合は、マイオカインは調節性よりも恒常的に分泌されている事が重要であると考えられるため、今回発見された恒常的に分泌されるマイオカインの生理機能について検証していく予定である。
|