研究課題/領域番号 |
26350843
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研究機関 | 十文字学園女子大学 |
研究代表者 |
小林 三智子 十文字学園女子大学, 人間生活学部, 教授 (20153645)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ストレス / 味覚感受性 / 心理状態 / 自律神経活動 / αーアミラーゼ活性 |
研究実績の概要 |
本研究は、私たちが常に曝されているストレスの影響について、味覚感受性と自律神経活動の面から検討するものである。平成26年度では、心理的ストレス負荷の妥当性を検証し、その後ストレス負荷前後の味覚感受性と自律神経活動の変化について検討した。 第一段階として、実験的にストレスあるいはリラックス状態を誘起し、主観的気分状態だけでなく、客観的な気分状態の指標として唾液α-アミラーゼ活性を測定するとともに、血圧及び自律神経(交感神経、副交感神経)活動と味覚感受性(五味識別能力、味覚感知強度、味覚強度変化)との関連性を検討した。その結果、心理的負荷条件を検討した。30分間の計算負荷によって実験協力者のストレス状態を誘起できることが唾液α-アミラーゼ活性により確認されたため、これをストレス条件として実験に用いることとした。 第二段階として、味刺激が自律神経活動に及ぼす影響について、塩味、うま味及び苦味刺激を用いて検討を行った。味により自律神経活動に生じる影響は異なり、高値であるほど交感神経活動優位となることを示すLF/HF比上昇率では、苦味刺激に比べて塩味刺激後で高値を維持することが明らかとなった。 第三段階として、心理的負荷により生じる味覚感受性と生理指標の変化の関係を検討した。ストレス状態では五味識別能力及び味覚感知強度に影響は生じないが、うま味感知後の強度低下が安静時に比べ急激になることが明らかとなった。リラックス状態では、五味識別能力、中でも甘味識別能力が高くなるとともに、苦味感知強度が上昇することがわかった。また、自律神経活動とうま味感知強度の間に、安静状態及びリラックス状態では弱い負の相関が認められ、特に副交感神経活動が亢進するほどうま味を弱く感じることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の成果として、心理的負荷の条件として、30分間の計算により実験協力者のストレス状態を誘起できることを唾液α-アミラーゼ活性により検証したことである。 第ニの成果として、味により自律神経活動に生じる影響は異なり、高値であるほど交感神経活動優位となることを示すLF/HF比上昇率では、苦味刺激に比べて塩味刺激後で高値を維持することが明らかとなったことである。 第三の成果として、気分状態(ストレスまたはリラックス)、生理指標及び味覚感受性の関係を検討した結果、ストレス状態では五味識別能力及び味覚感知強度に影響は生じないが、うま味感知後の強度低下が安静時に比べて急激になることが認められたことが挙げられる。 私たちが食品を味わう際に感じるおいしさは、味、匂い、テクスチャーなどの化学的特性や物理的特性だけで決定されるものではなく、味わう際の人の生理状態や心理状態にも大きく影響されるが、味覚面からそれらを検討した研究は極めて少ない。 ここで得られた成果は、我々の気分状態が変化した際のおいしさを感じるメカニズムの解明に大いに寄与すると思われ、自己点検による評価では本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
27年度には、味の持続性および味覚強度と自律神経活動の関係を中心に検討する。 TI(Time-intensity)法は、口に含んでから後味までの感覚の変化を刻々記録し、時間-強度曲線として捉える方法である。また、TDS(Temporal Dominance of Sensations)法は、時間経過にともなう食品の質的変化を測定できるため、継時的にテクスチャーが大きく変化するチョコレートやゼリーなどを評価対象とする例がある。27年度では味覚感受性の測定にこの2つの手法を用い、時間軸に沿って変化する味覚を検討する。 自律神経活動の測定には、加速度脈波測定システム アルテット(現有)を用い、簡易的な自律神経機能を評価する。交感神経、副交感神経のパワー比を、自律神経機能のバランスとして捉える。 脳波の測定には、ミューズブレインシステムを用いる。α波出現状況より、安静度(リラックス度)と緊張度(ストレス度)を測定する。 以上、5基本味を味わった際の味覚感受性、自律神経活動および脳波の測定を行い、それぞれの関連性を検討する。TI法ならびにTDS法を用いた味覚感受性と自律神経活動や脳波との関連性について、新たな知見を得ることを目的に、研究を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、味覚に関する学会が東京家政大学で開催されたため、交通費・宿泊費がほとんどかからなかった。また、人件費・謝金については、実験協力者のボランティアによって実験を遂行したため、この項目の支出がなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度に繰越すことになった助成金については、今年度分の助成金と合わせて、計画的に物品費、旅費、人件費・謝金、その他の項目で使用する予定である。 具体的には、物品費では実験に必要な試薬や実験器具等を購入し、旅費は学会参加の交通費と宿泊費にあてる。さらに、実験協力者とデータ整理の謝金として、人件費・謝金を使用する。その他は、学会参加費や英文校閲料として使用する計画である。
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