本研究では味覚感受性を「客観的」なデータで表現することを最終的な目的とした。平成27年度には、味刺激により誘発された快感情や不快感情が、脳波にどのような影響を与えているかを検討し、甘味と苦味ではその挙動が大きく異なるという結果が得られた。平成28年度ではそれらの結果をもとに、実験協力者の味覚に関する嗜好と脳波の関連性について検討した。また具体的な食品としてカカオ濃度の異なる3種のチョコレート(カカオ含量33%、56%、70%)を用いて、異なる味刺激が脳波に与える影響について検討した。本研究では味溶液に続き、具体的な食品(カカオ含量の異なるチョコレート)を用いることにより、味覚以外の体性感覚を加味した複合感覚の指標を得ることを目的とした。 その結果、いずれの3種類のチョコレートを摂取しても、安静時と比べてα波の出現率が上昇することはなかった。また、ストレス負荷における個人差が大きく、その誤差が測定結果に影響すると考えられた。 また、自律神経活動との関係では、カカオ含量が増すと副交感神経優位の者が減少し、カカオ含量の影響が示唆された。また、こちらも個人差が大きく、チョコレートという嗜好食品を用いているため、対象者の嗜好性が影響したと考えられた。 平成26年度から28年度までの本研究課題遂行において、味刺激による脳波誘発メカニズムがわずかであるが解明された。また、自律神経活動と脳波、味覚感受性との関連性に関する研究は極めて少なく、この三者の関係を知ることは、人の食嗜好の変化に関するメカニズムの解明に寄与すると考えられる。加えて、再現性や客観性の高い数量化された手法を使用した「おいしさ」や「食嗜好」の尺度測定の、基礎的な実験結果となるであろうことが期待された。さらに、初年度に実施したストレス負荷方法の提案は、今後の研究遂行上、極めて簡便で有用な方法といえる。
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