研究課題/領域番号 |
26350863
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中谷 直樹 東北大学, 東北メディカル・メガバンク機構, 准教授 (60422094)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 慢性疾患患者 / 社会的側面 / 生活習慣 / 職業 / 社会的孤立 / 喫煙 / 飲酒 / 活動量 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、慢性疾患患者の心理的・社会的側面、生活習慣、震災影響及び修正可能な介入ポイントを明確化し、無作為割り付け臨床試験(RCT)に移行するための知見を得ることである。本年度は、慢性疾患患者の社会的側面 (仕事、収入、人とのつながり) 、生活習慣 (喫煙、飲酒、睡眠、活動量) の詳細を明確化することを目的とする。 東北大学は七ヶ浜町との共同事業『東日本大震災・被災者健康診査』として、町内で家屋の被害に遭われた方々(特定の5地区の全員を対象)に、現在の健康全般や生活の状態を把握するため調査を計画した。健康調査は平成24年10月から調査票を配布し(前半は全壊・大規模半壊の地域、後半は半壊未満の地域)、調査対象者7036人のうち、6840人(97%)に配布した。 今回、焦点を当てる慢性疾患は脳卒中、心筋梗塞・狭心症、腎臓病、肝臓病、がん、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症の8疾患とする。慢性疾患なし群に対するあり群の社会的側面、生活習慣のオッズ比を算出した。また、疾患ごとのオッズ比もあわせて算出した。 慢性疾患患者の社会的側面では、無職、生活が苦しい、社会的に孤立しているリスクは、多変量補正後でいずれも有意なものはなかった。疾患別の解析では、心疾患を有するもので生活が苦しいと答えたオッズ比が1.5 (1.1-2.1) と有意に高かった。生活習慣では、慢性疾患患者では喫煙のリスクが有意に低いことが示された。疾患別では、高血圧者で喫煙のリスクが0.7 (0.6-0.9) と有意に低かった。飲酒、不眠、低活動では、多変量補正後に有意なものはなかった。疾患別では、がんで飲酒のリスクが低く、高血圧で飲酒のリスクが高いことが示された。また、心疾患、糖尿病、高脂血症で不眠のリスクが高く、がんで低活動のリスクが高いことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度の調査計画は、慢性疾患患者と非患者の社会的側面(仕事・収入・社会とのつながり)、生活習慣(喫煙、飲酒、睡眠、活動)の詳細を検討することにあった。 上述したが、本年度の調査結果として、慢性疾患患者の社会的側面では、無職、生活が苦しい、社会的に孤立しているリスクは、多変量補正後でいずれも有意なものはなかった。疾患別の解析では、心疾患を有するもので生活が苦しいと答えたオッズ比が1.5 (1.1-2.1) と有意に高かった。生活習慣では、慢性疾患患者では喫煙のリスクが有意に低いことが示された。疾患別では、高血圧者で喫煙のリスクが0.7 (0.6-0.9) と有意に低かった。飲酒、不眠、低活動では、多変量補正後に有意なものはなかった。疾患別では、がんで飲酒のリスクが低く、高血圧で飲酒のリスクが高いことが示された。また、心疾患、糖尿病、高脂血症で不眠のリスクが高く、がんで低活動のリスクが高いことが示された。 以上より、慢性疾患患者の社会的側面、生活習慣は全体としては有意にリスクが高いものは少ないが、疾患別ではそれぞれの疾患特有の状況が示された。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の調査計画として、全壊、大規模半壊以上群・半壊未満群別に比較し、心理・社会・生活習慣の影響が大きいかどうかを評価する。また、震災前と後の社会的側面(仕事・収入)の変化や生活習慣(喫煙本数・飲酒量)の変化に関する震災による影響を検討する。さらに、慢性疾患患者に対する介入ポイントを明確化し、修正可能な介入ポイントを明確化し、今後のRCTへの実施可能性を探る。 研究仮説として、①全壊・大規模半壊以上の者は、半壊未満に比し、心理・社会的側面・生活習慣の影響を受ける、②震災後では震災前に比し、就業割合・収入は低く、喫煙本数・飲酒量が増大する。という2点を検証する。 統計解析は、申請者及び研究協力者が実施する。また、慢性疾患患者の震災影響に関するエビデンステーブルを作成し、全壊、大規模半壊以上群・半壊未満群別に慢性疾患患者と非患者の比較を行う。また、震災前と後の仕事の変化や生活習慣の変化を検証するとともに、慢性疾患患者に対する介入ポイントを明確化し、修正可能な介入ポイントがあれば、今後のRCTへの移行可能性を探る。 平成28年度が研究の最終年度であるので、論文化・学会発表により、最新の知識を得るのみならず、研究成果を社会・国民に発信する。本研究は、慢性疾患患者の支援のために必要な基礎資料となるだけではなく、介入効果が期待できる疾患、修正可能な要因を明確化し、その介入方法について探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.旅費の支出が少なかった点:東北公衆衛生学会の参加を予定していたが、同日研究調査となった。そのため東北公衆衛生学会を不参加としたことで旅費の支出が少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度の使用計画としては最終年度となるため国内学会、国外学会に積極的に参加し最新の医学研究について役立つ情報を収集したいと考える。
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