うつ病患者では,うつ病の診断を満たす以前にも軽度の抑うつ症状が認められることから,うつ病患者の早期発見や「うつ病予備群」への早期対応が求められている。この状況において,ストレスへの主観的認知の高まりや閾値下の抑うつ気分・意欲低下をもつ成人健常者を早期に発見し,予防的介入を行うための生物学的診断指標を構築することを最終目標とし,下記の研究を行った。 1)健常者において,生活の質(Quality of Life: QOL),ストレス,抑うつ及び意欲低下への主観的認知を評価するため,自記式認知尺度を使用し,点数化する。 2)連続加算テストを賦活課題として,近赤外線スペクトロスコピー(Near Infrared Spectroscopy:NIRS)による酸化ヘモグロビン([oxy-Hb])濃度を測定し,平均血流量変化を算出する。 3)閾値下抑うつ・意欲低下と,QOL,ストレス,精神運動速度,平均血流量変化との間の相関係数を算出し,閾値下抑うつ・意欲低下への主観的認知が,QOL,ストレス,精神運動速度,前頭前野の平均血流量変化と連動しているか否かについて統計学的評価を行う。 平成29年度では,連続加算施行中の[oxy-Hb]濃度におけるレストからの相対的変化をもとに,QOL,ストレス,抑うつ及び意欲低下への主観的認知評価・精神運動速度・ [oxy-Hb]濃度変化について,Pearsonの偏相関係数を算出した。その中から,危険率有意水準が5%以下の組み合わせやNIRSチャンネルを抽出した。その結果,抑うつに対しタスク時の前頭前野[oxy-Hb]濃度変化減少やQOL低下の相関が認められ,閾値下抑うつの指標の一つになることが示唆された。
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