本研究の目的は、内田クレペリン検査における筆跡の時間情報を用いた指標(特徴量)を用いて、定量的なメンタルヘルス不調の予兆把握ができる手段を確立することである。今年度は、151人を4年間継続して追跡したコホート調査の統計解析を実施した。具体的には、居住条件と食生活、および生活習慣との関係を検討した。その結果、一人暮らしより実家暮らしの方が、たんぱく質比、脂質比、n-3系脂肪酸等の栄養摂取割合が有意に高いことが分かった。これより、実家暮らしの方が健康的な食生活をしていると判断できた。一方、女性の一人暮らしでは、精神健康度を測定する質問票GHQ30の「不安と気分変調」、「希死念慮うつ傾向」のスコアが高く、うつ病と関連があるn-3系脂肪酸摂取割合は低い傾向があることから、精神健康度が食生活に左右されやすいことが示唆された。また、生活習慣を測定する質問票DIHAL.2の結果から、メンタルヘルス不調の低リスク群の人は、運動する意欲があり、バランスが取れた規則的な食習慣を持ち、規則的に睡眠をとる傾向があることが示された。これらの結果より、居住条件に有意に関係する食生活の乱れ、すなわちバランスが悪く不規則な食事、さらに運動不足、不規則な睡眠は、メンタルヘルス不調のリスク高めると推定できた。 また、指標の高リスク群と低リスク群の閾値について、4次元クラスタリングの手法を用いて機械的に2群に分けて従来の閾値との整合を見ることで、その客観性を検討した。その結果、4次元クラスタリング法で求めた閾値は4年間の平均が9.9であり、従来から用いている閾値の10.0にほぼ一致した。これより、従来の閾値について客観性が担保できた。 以上の研究成果を纏めて、11月に米国San Diegoで開催された北米神経科学会(Society for Neuroscience)の年会でポスター発表し、外部評価を受けた。
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