目的:本研究は、変形性股関節症患者の主観的QOL の維持・向上に関わる身体・心理・社会的変数を、1年間の追跡調査により探索的に検討することを目的として実施した。 方法:2014年9月から2016年8月までに1医療機関の股関節専門外来を受診した初診患者で、変形性股関節症と診断された241人に対し、調査協力を依頼した。検討した変数は、性別、年齢、重症度、疼痛、患者教育・疾病理解、治療への主体的取り組み、生活のセルフ・コントロール、運動習慣、自己効力感、QOLである。初診時と1年後に、本人による生活記録票提出および自記式質問紙調査票の配付回収によって得たデータを、主治医及び理学療法士が採取した医学データとリンクした。 結果・考察:第1回調査では236人から参加同意が得られ、220人から回収された。第2回調査には2017年3月末時点で115人が同意、参加している。1年後に改善した変数は、治療への主体的取り組み、疼痛、重症度のJOA hip scoreの日常生活動作、QOLのSF-36の各NBS得点であった。1年後のQOLと有意な相関が見られたベースライン時の変数は、疾病理解、重症度、自己効力感であり、疼痛は有意な相関を示さなかった。なお、ベースラインでは、疼痛が強いほどQOLのWHO SUBIのうち陽性感情が低かったが、1年後には有意な相関が見られなくなった。また、1年後の疾病理解は、同時期のWHO SUBIのうち陽性感情のみと有意な相関を示したが、治療への主体的取り組みは陽性・陰性感情の両方と有意な相関を示した。さらに、疼痛はQOLの身体的側面とは相関するものの、心理社会的側面とは有意な相関がなかった。QOLの心理社会的側面を向上させ、かつ、陽性・陰性感情の両面を改善するには、疼痛を緩和するだけでなく、患者教育を通して自身が治療に主体的に関わっている感覚を育てる重要性が示された。
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