研究課題/領域番号 |
26350883
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
小宮 秀明 宇都宮大学, 教育学部, 教授 (30186811)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 筋細胞内脂肪 / 内臓脂肪面積 / 最大酸素摂取量 / 運動習慣 / インスリン抵抗性 / HOMA-R / HU値 / アスリートパラドックス |
研究実績の概要 |
高血圧,脂質異常症や2型糖尿病などの生活習慣病の発症基盤として内臓脂肪の過剰蓄積が指摘されている.本邦のメタボリックシンドロームの基準の必須項目として,内臓脂肪型肥満であるが,その判定には腹囲(男性で85cm以上,女性で90cm以上)またはX線CT法による内臓脂肪面積が100cm2以上となっている.実際には簡易的な測定法として腹囲が用いられているが,この基準値は内臓脂肪面積を基にしたものである.内臓脂肪が注目されている根拠としては,脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインが生活習慣病の発症と密接に関わり,このアディポサイトカインが皮下脂肪よりも内臓脂肪から多く分泌されることに由来している. これまで内臓脂肪面積の多寡と生活習慣病の発症には高い相関が得られているが,中には内臓脂肪が少ないにも関わらず生活習慣病を発症し,インスリン抵抗性を惹起する例も少なくない. 近年,内臓脂肪に代わる第3の脂肪細胞として異所性脂肪細胞と生活習慣病との関わりが注目を集めている.今回は異所性脂肪細胞の内,筋内脂肪に着目し,腹部及び下腿部をCTスキャンし,各種筋肉群のCT値(HU)の多寡からインスリン抵抗性の指標であるHOMA-Rとの関連性について分析を試みた.加えて,日常の運動習慣,有酸素性運動能力の最も信頼しうる指標である最大酸素摂取量を測定し,日常の有酸素性運動が内臓脂肪,筋内脂肪の蓄積,インスリン抵抗性に及ぼす影響について明らかにするものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は平成26年度からの3年計画の2年目の研究である.なお,解析結果は昨年度の被験者数32名と今回の30名,計62名のものである. 内臓脂肪から分泌されるアディポサイトカインであるTNF-αがインスリン抵抗性を生じさせることが知られている.インスリン抵抗性の是正には有酸素運動が期待されており,今回の研究では,インスリン抵抗性の指標であるHOMA-Rと有酸素運動能力の最も信頼しうる最大酸素摂取量(VO2max)との関連性について検討を行った. 内臓脂肪面積とHOMA-Rとの間にr=0.483(p<0.01)の有意な正の相関が観察された.内臓脂肪面積とVO2maxとの間にr=-0.659(p<0.001)の有意な負の相関が観察され,VO2maxとHOMA-Rとの間にr=-0.423 (p<0.01)の有意な負の相関が観察された.VO2maxと大腰筋の筋肉内脂肪との間に上へ凸の二次回帰が得られアスリートパラドックスと呼称される有酸素性作業能が高い者に見られる筋内の脂肪増加現象が観察された.今回の結果から有酸素性作業能力が高いことは生活習慣病の予防の要因の1つになることを示唆するものであるが,内臓脂肪型肥満者の筋内脂肪が多いことと極めて持久力が優れた者における筋内脂肪が多いことは同じ筋内脂肪であっても異なった作用を示す可能性が考えられる. 今回の研究では,健常者に対して有酸素運動が内臓脂肪面積やインスリン抵抗性の指標であるHOMA-Rと有意な負の相関を示したことから日常の運動が体力向上のみならず,生活習慣病予防に非常に有効な手段であることが示唆された. ただし対象者のほとんどが健常者であり,BMI25以上の者や内臓脂肪面積が100cm2以上の肥満者数は少なく,空腹時血糖値が110mg/dl以上の者はほとんどいないため,体格,血糖値が高値を示す者を最終年度には加える予定である.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は今回の研究の最終年度にあたるものである. 測定項目,アンケート項目は前年度までと全て同じである. これまでの対象者は20歳以上の成人男性であり,引き続き,同性・同年代の被験者を増やし3年間に収集した成果を総括する.これまで被験者は糖脂質代謝に既往症のがない者を体格(BMI25未満・以上または内臓脂肪面積100cm2未満・以上),生活習慣(運動習慣の有無,食習慣),日常の有酸素運度の指標となる最大酸素摂取量の多寡などをの視点で内臓脂肪面積,筋肉内脂肪,インスリン抵抗性などの項目に違いが見られるものかを検討してきた. 最終年度は被験者30数名の中に極端なBMIを有する肥満者,内臓脂肪が極端に多い者,全身持久力の最も信頼される最大酸素摂取量が高い者,空腹時の血糖値が110mg/dl以上の者など極端な変数を示す症例を加え,運動の有無,体格の違い,空腹時の血糖,筋肉内脂肪,内臓脂肪面積の違いからインスリン抵抗性に及ぼす影響について検討を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた消耗品および旅費が当初予定していた金額よりも少なく済んだため,残金が出た次第である.
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次年度使用額の使用計画 |
2年度の残金は平成28年度の消耗品の代金として使用する予定である.
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