今回は筋肉のCT値とインスリン抵抗性との関連性について分析を試みた.加えて,有酸素運動がインスリン抵抗性,内臓脂肪や筋内脂肪に及ぼす影響について検討した.3年間の総被験者数は91名であり,その内,運動群は45名,非運動群は46名であった.測定項目はBMI,腹囲,最大酸素摂取量,収縮期・拡張期血圧,中性脂肪,総cho,HDLcho,LDLcho,血糖,インスリンである.X線CT装置による内臓脂肪面積及び脊柱起立筋,大腰筋,腓腹筋,ヒラメ筋,前脛骨筋のCT値を求めた.アンケート調査は日常の生活習慣の16項目である.被験者の16名が内臓脂肪の過剰蓄積,9名がインスリン抵抗性を示した.メタボリックシンドローム該当者は6名であり,いずれも非運動群であった.VFAとHOMA-Rとの間に有意な正の,VFAとVO2maxとの間に有意な負の相関が観察された.VFAと大腰筋CT値にr=-0.447の有意な相関が認められた.VO2maxとHOMA-Rとの間にr=-0.308の有意な負の相関が観察され,日常の運動による有酸素性能力の向上がインスリン抵抗性を軽減させることが示唆された. VO2maxと各筋のCT値の関係に二次回帰曲線を当てはめると,全て上に突の二次回帰曲線が得られた.遅筋である大腰筋のCT値とHOMA-Rとの間にのみr=-0.306の有意な相関が確認された. 以上より,健常者においても内臓脂肪が蓄積した場合にはインスリン抵抗性の萌芽が見られたこと,さらに内臓脂肪量の多い者ほど生活習慣病発症の関連因子に影響を与えることが窺えた.加えて,異所性脂肪の一つである筋内脂肪とインスリン抵抗性の指標であるHOMA-Rとの関係において,大腰筋で有意な相関が確認されたことは,筋内脂肪を生活習慣病の促進因子として検討する際,大腰筋が有力な候補であることが窺えた.
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