研究課題
胎生期から乳児期の栄養などの環境が成人期の疾病罹患性を規定するというDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)仮説が提唱されている。このDOHaD仮説の分子機構として、遺伝子発現のエピゲノム制御、特にDNAメチル化による制御が注目されている。我々は最近、マウス乳仔期において核内受容体であるperoxisome proliferator activated receptor (PPAR)αの母乳を介した活性化が仔の肝臓の脂肪酸β酸化関連遺伝子のDNA脱メチル化を導き遺伝子発現が増加することを示した(Diabetes 2015)。Fibroblast growth factor(FGF)21は糖脂質代謝の鍵分子であり、その遺伝子発現はPPARαによって正に制御されている。平成26年度は周産期の母獣マウスにPPARα人工リガンド(Wy)を投与し、産仔マウスの肝臓におけるFgf21のDNAメチル化の経時変化を解析した。PPARα欠損(KO)マウスを用いて同様に解析した。Wy群では対照群と比較して乳仔期におけるFgf21のDNA脱メチル化の亢進が認められ、これは成獣期まで維持された。一方、乳仔期から成獣期を通してPPARαKOマウスではDNAメチル化の変化は認められなかった。成獣期においてWy群と対照群の間ではFgf21発現と血中濃度に有意差はなかった。このため平成27年度には、Wy単回投与や絶食により一過性にPPARαを活性化させたところ、DNA脱メチル化の程度と相関してFgf21発現と血清濃度の有意な増加が認められた。乳仔期までにPPARα依存的に確立したDNAメチル化状態がエピゲノム記憶されることにより、成獣期の環境変化に対するFgf21発現の応答性が決定されることが初めて明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
平成26年度の研究で、マウス胎仔期から乳仔期までに形成されたPPARαを介したFGF21遺伝子のDNA脱メチル化状態が成獣期まで維持される「エピゲノム記憶」が存在することが明らかとなった。また平成27年度の研究で、成獣期におけるFgf21のDNAメチル化状態の差は、絶食などの環境変化に対するFgf21発現応答の差として反映されることが明らかになった。これはDNAメチル化による遺伝子発現制御機構の生理的意義を初めて明らかにしたもので、極めて新奇性が高い。その後の成獣期マウス代謝表現型の解析も順調に進んでいる。
①PPARαによるマウスFgf21のDNA脱メチル化の分子機構の解明昨年度までに、DNA脱メチル化に関与する既知の因子であるTET(Ten-Eleven Translocation)1-3のFGF21遺伝子(Fgf21)上へのリクルートメントをクロマチン免疫沈降法で検討したところ、TET3のPPARαリガンド依存性のリクルートメントをpreliminaryに見いだした。このため平成28年度はTET3とPPARαとの結合を抗PPARα抗体を用いた免疫沈降法で、また機能的相互作用をmammalian two hybrid法を用いて検討する。②Fgf21のエピジェネティックメモリーの分子機構と成獣期の糖脂質代謝への影響の解析我々はマウス母獣の妊娠期から授乳期にPPARαの人工リガンド(Wy)を投与すると、その産仔(Wy群)のFgf21のDNA脱メチル化が対照群の産仔と比較して有意に誘導され、またそのDNAメチル化状態の差異は成獣期まで維持されること、および成獣期におけるFgf21のDNAメチル化状態の差は、絶食などの環境変化に対するFgf21発現応答の差として反映されることを昨年度までの研究で明らかにした。平成28年度はWy群、対照群の両群に高脂肪食を生後4週目より10週間負荷し、DNAメチル化状態の差異が成獣期の糖脂質代謝表現型に与える影響を評価する。
すべて 2015
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Diabetes
巻: 64 ページ: 775-784
10.2337/db14-0158