研究課題/領域番号 |
26350885
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
羽入 修 新潟大学, 医歯学総合病院, 講師 (10452054)
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研究分担者 |
曽根 博仁 新潟大学, 医歯学系, 教授 (30312846)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 運動療法 / マイオカイン / BDNF / 生活習慣病 / 糖尿病 / 肥満 |
研究実績の概要 |
運動療法は糖尿病を始めとして肥満、脂質異常症、高血圧など生活習慣病の予防・治療に極めて有効である。運動療法は単純なカロリー消費以外にも、過剰な食欲の正常化や認知機能保持など様々な好ましい効果も知られているが、その多くは機序が不明である。我々は2型糖尿病患者が運動療法を行うと、その活動量に反比例して脳卒中や死亡率が半減することをエビデンスとして示したが(曽根博仁ら、Diabetologia 2013;56: 1021-1030)その機序は明らかではない。 我々は、早くから有望な新規糖尿病薬候補である脳由来神経栄養因子Brain-derived neurotrophic factor (BDNF)に注目し、その糖エネルギー代謝改善作用機序について解析を進めて来た。BDNFは血糖低下作用を有する事から新規糖尿病薬として期待がかかるが、近年運動により筋組織でも産生されることが報告された。しかしその生理的役割は不明である。 これまでに我々はBDNFを7日間連日皮下投与した正常マウスでは、有意にえさの摂取量と空腹時血糖が低下することを報告した。また血糖を上昇させる代表的なホルモンであるグルカゴンは、膵臓ランゲルハンス島のα細胞から分泌され、糖尿病患者ではグルカゴン分泌が過剰となっていることが知られている。我々は、正常マウスの膵免疫染色にてBDNFの受容体であるtrkBが膵島α細胞に発現しており、また正常マウス単離膵島におい て、BDNF添加によりグルカゴン分泌が有意に低下することを見出した。BDNFノックアウトマウスでの検討では、血糖値はhomozygoteで最も高く、heterozygote、wildtype の順で低下した。これらの結果より、BDNF は食欲抑制作用に加え、膵α細胞からのグルカゴン分泌を抑制することにより血糖を低下させる可能性があることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幾つかの重要な論文業績を発表しているとともに、当該研究の実施に必要な実験機器、環境の整備、実験試薬の準備も行っている。具体的には、運動療法中の筋細胞の状態の解析を目的として、培養筋細胞に安定して収縮刺激を加える in vitro exercise modelを確立するため、培養細胞ペーシングシステムを導入し、条件設定などのセットアップを行っている。また培養細胞や組織中のmRNAを定量するためのRealtime PCRシステムも稼働させている。 その他、ヒト筋細胞は米国Lonza社から、糖尿病モデル動物は日本SLCから購入し、またBDNFは連携研究者が所属する新潟大学脳研究所より入手可能であり、BDNF遺伝子改変動物は新潟大学脳研究所にて維持している。動物実験は当施設に付属の動物実験施設において行い、各種ホルモン定量に用 いるELISAは常時研究室にて行っている。siRNAについては米国Dharmacon社より購入し、またα細胞株(αTC1.9)は研究室で既に培養継代し、mRNAの抽出とRealtime PCRによる各種遺伝子発現の定量を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
今後はBDNFによる筋組織でのブドウ糖利用促進作用やインスリン感受性改善作用、さらには肥満予防作用、グルカゴン分泌抑制作用など抗糖尿病効果の詳細な機序を解明すると共に、基礎的な臨床データも収集する。運動により筋組織で産生されるBDNFが、食欲抑制、基礎代謝亢進のみならず、グルカゴン抑制作用を持つことにより血糖改善作用を有することが示され、またこれらの機序が解明されれば、運動療法の有効性に科学的な根拠を与えるとともに、BDNFが新たな糖尿病治療薬として臨床応用される可能性も示唆される。具体的にはin vitroの系として培養筋細胞、α細胞株、単離膵島を用いて、またin vivoの系として各種糖尿病モデル動物ならびに、すでに当施設で確立・維持しているBDNF遺伝子発現抑制(ノックアウト)マウス及びBDNF遺伝子過剰発現(トランスジェニック)マウスを用いて、BDNFが運動を介して血糖を低下させる機序を解明する。また健常者や糖尿病患者の末梢血BDNF濃度について、既に運用しているBDNF測定法(ELISA)を用いて、各種運動療法の前後、及び長期経時的に測定することにより、血糖、体重、各種糖尿病治療、合併症の進展等の影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に購入した培養細胞ペーシングシステムや既存のリアルタイムPCRシステムなどの実験機器、実験環境の整備、実験試薬の準備を中心に行った。
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次年度使用額の使用計画 |
当該年度に整備を進めた実験環境を用いて、次年度は培養筋細胞を用いたin vitro exercise modelにより運動療法中の筋細胞の各種遺伝子発現の解析を進める。ヒト筋細胞、各種ホルモン定量に用いるELISAキットや、標的遺伝子の特異的抑制に用いるsiRNAの購入も予定している。糖尿病モデル動物も購入する。
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