研究課題
細胞の小胞体内に折り畳み不全タンパク質が蓄積して小胞体ストレスが発生すると細胞は、小胞体ストレス応答を活性化させて小胞体ストレスを軽減させる。本研究は、骨格筋の加齢時における小胞体ストレスの発生とその応答シグナルによる骨格筋の機能制御機構について明らかにすることを目的とする。前年度までに小胞体ストレス応答が加齢したマウス骨格筋で惹起されていることを明らかにした。本年度は小胞体ストレス応答経路のうち、PERK経路について解析を行った。まず、これまでに作製してた薬剤によって骨格筋特異的にPERK経路を活性化できるFv2E-PERKトランスジェニックマウス(TGマウス)を用いて、PERK経路を活性化させた時の骨格筋について解析を行った。TGマウスにおいて薬剤によってPERK経路を活性化させると、1週間で速やかな体重低下が観察され、野生型マウスと比べて骨格筋重量が60%程度までになることがわかった。TGマウスの骨格筋組織を観察すると野生型と比較して筋萎縮が認められた。意外なことにTGマウスでは骨格筋を肥大させるシグナルが上昇し、骨格筋萎縮に関わるいくつかの遺伝子発現は低下していた。さらにPERK経路がアミノ酸代謝に関与することが報告されていることから、細胞内アミノ酸含量について解析したところ、リジンなどいくつかのアミノ酸やアミノ化合物においてTGマウスと野生型マウスの間で差が認められた。さらにPERK経路の活性化によって発現が上昇することが知られている転写因子ATF4を骨格筋特異的に欠損するマウスを作製して、解析を行っている。現在までに若齢時のATF4欠損マウスの骨格筋重量は野生型マウスと同等であった。以上のことから、本年度はPERK経路の活性化が筋萎縮を誘導すること、ATF4が若齢時の骨格筋の筋量制御には機能していないことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
研究当初の目的の一つとしていたPERK経路の筋萎縮における意義について解析を行い、骨格筋特異的なPERK経路の活性化によって筋萎縮が誘導されることを明らかに出来た。また、PERK経路の下流転写因子であるATF4欠損マウスを作製して解析に着手することが出来た。すでにATF4欠損マウスの加齢時の表現系を解析するための準備も進めている。以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
来年度は、まずPERK経路を活性化できるTGマウスの表現系をさらに解析する。具体的にはTGマウスのPERK経路の活性化による骨格筋萎縮作用に関して薬剤濃度を変化させることでPERK経路の活性化の程度を変化させたときの骨格筋の変化を解析する。また、TGマウスへの薬剤投与後に中断することでPERK経路の活性化を低下させたときの筋萎縮からの回復などについて解析を行う。また、詳細な分子機構については過去に行っているマイクロアレイなどのデータを利用することで鍵分子を見いだして、培養細胞も用いて解析を行う。一方で新たに作製した骨格筋特異的なATF4欠損マウスの表現系をさらに解析する。具体的には当初の研究目的にあった加齢時の骨格筋の萎縮の程度や運動能力について検討を行う。また、加齢以外にも骨格筋のATF4を誘導することができると考えられる低タンパク食、運動、寒冷刺激など様々な条件下での表現系を解析する。さらに筋萎縮を誘導させる後肢懸垂や絶食モデルなどにおいても解析を行う。また、可能であればTGマウスと骨格筋特異的ATF4欠損マウスを交配させることでPERK経路の活性化による筋萎縮においてATF4がどの程度関与しているかを明らかにする。
マウスを用いた実験において予備検討が順調に進み、必要とする試薬の購入量を減らすことが出来たため。
新たに作製した次年度解析予定の遺伝子改変マウスの飼育費用やRT-PCRやマイクロアレイなどの解析のために必要な試薬の購入費用とする。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) 図書 (1件) 備考 (1件)
FASEB journal
巻: 30 ページ: 798-812
10.1096/fj.15-275990
http://www.genome.tokushima-u.ac.jp/dmb/DMB/homu.html