研究課題/領域番号 |
26350918
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
丹羽 淳子 近畿大学, 医学部, 講師 (60122082)
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研究分担者 |
高橋 英夫 近畿大学, 医学部, 教授 (60335627)
濱崎 真一 近畿大学, 医学部附属病院, 助教 (60642890)
小堀 宅郎 近畿大学, 医学部, 助教 (60734697)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳卒中 / 再生 / Neurovascular Unit / 血管新生 / 神経新生 / 微小環境 / 恒常性 / 運動介入 |
研究実績の概要 |
脳卒中に対する治療の方向性は、神経細胞を取り巻く血管系やグリア系細胞(Neurovascular Unit)の動的な変化を理解し、壊れた機能的ネットワークを再構築することにある。運動介入による脳傷害改善効果は、内在性にもつ脳保護機序の活性化を介して、再生機転へ微小環境を変化させ予後を改善する。また脳卒中を含む慢性炎症性の心血管系疾患や代謝異常疾患の発症・進展には、臓器間の恒常性維持機構(循環・神経・免疫・代謝系連関)が重要であり、運動介入は脳のみならず臓器間の恒常性ネットワークの活性化を介していると考える。視床下部は第3脳室の両側に存在し、全臓器の恒常性維持機構の要である。近年、第3脳室周囲に存在する幹細胞様細胞(tanycyte)が視床下部神経核の神経新生に関与していることが報告された。 今年度、我々は、このtanycyteの神経新生について、発症前から発症(傷害)時、発症後回復(再生・修復)期にわたって免疫組織学的あるいは電子顕微鏡によって観察検討した。運動介入は視床下部域神経新生を活性化し、また成熟神経細胞のturnoverを促進して細胞老化を抑制した。これには、FGF-2やEGFなど神経細胞の新生や増殖、生存維持に関与る因子の産生増加が併行していた。またFGF-2の産生はtanycyteや新生神経細胞の局在とほぼ一致していた。運動介入による脳卒中発症遅延と病変部の縮小、脳傷害後における生理学的恒常性維持(摂食量、飲水量、運動量、体重、血圧)や生存率の延長は、脳傷害局所のNeurovascular Unitの再構築だけでなく視床下部の細胞活性化を介した全身性の恒常性維持が関与することが示された (Niwa A, et al.: Brain Structure and Function; 2015)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳傷害部に加えて、生体恒常性維持機構の中枢である視床下部の神経新生が運動介入により活性化し、脳傷害後の回復に関係していることを明らかにできた。この視床下部が存在する第3脳室周囲は、2つの主たる神経幹細胞域と比較すると、成体においても胎生期の形態に近く、グリア細胞や上衣細胞とNiche構造を作っている。運動介入はこれら微小環境を活性化して視床下部の細胞若返りを促進していることが考えられる。今年度は病変部局所の微小環境における細胞や分子の検討はできなかったが、運動のような全身性の刺激が局所のみならず全臓器の連関の恒常性維持に基づいていることを視床下部の神経新生動態から明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
傷害部再生には骨髄細胞の動員が必須であると考えられる。次年度以降は、骨髄から末梢へ幹細胞の放出と移動について、骨髄細胞に対する運動介入効果を検討する。病変部再生時のNeurovascular Unit再構築と組織微小環境における炎症反応の制御を検討する。 ①動物実験(自発運動介入実験) 引き続き昨年度の計画に従って行う。血圧等生理学的観察と神経症状や神経学的機能検査を定期的に継続して行う。 ②骨髄細胞老化・増殖活性・ケモカインや栄養因子産生・受容体発現 運動群・非運動群のラット大腿骨および腓骨を摘出し、凍結切片を作成して細胞の活性の程度(細胞老化、アポトーシス細胞数の測定、増殖活性)を調べる。また生鮮標本から骨髄細胞を分取してCXCL12などのケモカインやTGF-βなどの栄養因子産生をELISA法により測定する。これらの受容体発現量と細胞周期をフローサイトメトリーにより測定し、運動介入が骨髄細胞に与える影響を調べる。骨髄由来血管内皮前駆細胞あるいは造血幹細胞の増殖や放出・移動を検討する目的で、骨髄ニッチについて、傍血管ニッチの数や細胞を免疫組織学的に(Nestin+やLeptinR+間葉系細胞、CXCL12+細胞)検出する。交感神経系の関与も検討する。 ③病変部Neurovascular Unitと移入実験 病変部の神経幹(前駆)細胞や血管系幹(前駆)細胞を取り巻く微小環境では炎症反応の制御が深く関わっていると考えられるので、炎症性サイトカインやNOと幹細胞の生存と分化を検討する。蛍光色素で標識した骨髄細胞を同腹のラットに移入した後、血管内皮細胞やグリア系細胞、マクロファージをレクチンや抗体を使って標識し、病変部ペナンブラにおける微小環境(細胞の種類や分子)について、共焦点顕微鏡や電子顕微鏡を使って詳細に検討する。骨髄細胞の遊走活性は3次元ケモタキシスチャンバーを使って確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りの使用額で研究を行った。
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次年度使用額の使用計画 |
骨髄から末梢へ幹細胞の放出と移動について、骨髄細胞に対する運動介入効果を検討する。病変部再生時のNeurovascular Unit再構築と組織微小環境における炎症反応の制御を検討する。 ①動物実験(自発運動介入実験) 回転ケージ内で自発運動をさせる(運動群)と非運動群で実験を行う。SHRSPと対照群としてWKYとWistarラットを使う。②骨髄細胞の細胞老化・増殖活性・ケモカインや栄養因子産生・受容体発現 β-ガラクトシダーゼ活性、TUNEL法、抗Ki67抗体で染色し増殖活性試験を行う。ケモカインなどの産生をELISA法により測定する。骨髄ニッチについて、免疫組織学的に検出する。③病変部Neurovascular Unitと移入実験 蛍光標識骨髄細胞を移入した後、血管内皮細胞やグリア系細胞、マクロファージをレクチンや抗体を使って標識し、病変部を共焦点顕微鏡や電子顕微鏡を使って検討する。
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