利尻島における実績は次のとおりである。(1)祖父母世代(現在70代、80代の人々)を対象にインタビュー調査を行い、身体・健康・医療に関する知識と行動パターンの世代間比較を行った。その結果、祖父母世代が子どもだった頃と現在の子どもたちとでは学校制度や医療制度、それを支える社会構造に大きな違いがあり、子ども期の身体・健康・医療に関する知識と行動パターンの変化を生み出していることが明らかになった。(2) 地元の医師にインタビューを行い、島の医療体制や子どもの病気に対する対応について、利尻島は札幌市への交通の便がよいため、島独自の医療環境というよりも、札幌との相関について理解を深める必要があることがわかった。また、昔と今の家庭配置薬や売薬の利用について、祖父母世代に聞き取りを行い、病院に通いやすい現在の状況とはやや異なっていることが明らかになった。(3)研究成果の一部を「写真と語り」であらわし、地域の人々や子どもたちに発信し、本研究の最終年度のしめくくりを行った。 波照間島では子どもの保健医療行動に関する医療者への聞き取りを行い、波照間診療所の子どもの受診率は月平均5名程度であり、継続的な受診者はいないことがわかった。その一方、32名の小学生の半数は虫歯治療が必要な状態で、半年後も9名は治療が未完であった。こうした受診行動の相違は、医療者と親の関係性に起因している。歯科診療所の医師は島民と日常生活で接点が少ない。他方、診療所の医師も2年任期だが、看護師や事務職員が長年勤務し子どもの日常の様子や成長の過程を知っているため、親は医師に詳細な説明なしに気軽に受診できるという。このことから、子どもの生活を総合的に見ようとする医療者の姿勢が子どもの受診行動に影響を与えていることが明らかになった。
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