研究課題/領域番号 |
26350948
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研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
岩田 昇 広島国際大学, 心理学部, 教授 (80203389)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 内在化問題 / 外在化問題 / 小学生 / ストレス / 家庭 / 学校 |
研究実績の概要 |
2015年度に計画しながら学校側との調整困難により実施に至らなかった,保護者まで含めた総合調査を公立8小学校5・6年生およびその保護者・担任教師を対象に実施した。ただし,2校では学校側の意向により保護者への調査ができず(全体の20%),また全体の約3割の児童では父母の回答が得られなかったため,保護者未調査小学校を除き,父母の両方あるいはいずれかの回答を得られたのは64%であった。一方,1校では5年生の教師評定が得られず,524名(96.9%)の児童に関する教師評定を得た。児童の内在化・外在化問題の測定には国際標準測定ツールであるStrengths and Difficulties Questionnaireの日本語版(SDQ)を用いた。 Goodmanらの子ども・保護者・教師の評定によるSDQの尺度得点および保護者・教師の影響評定による情緒障害・行為障害・多動性障害の暫定診断のためのアルゴリズムに基づくと,情緒障害(内在化問題)は23名(5%),外在化問題の行為障害は148名(27%),多動性障害は34名(6%)に認められた。 さらにこの暫定診断に基づいて,関連する個人・学校・家庭要因を検討した結果,内在化・外在化問題を促進・助長する危険因子として抽出されたのは学校ストレッサーや学校不満足,統制(厳しいしつけ)であった。その逆の防御因子としては,朝食摂食・レジリエンス・父母のサポート・親密な親子関係や家庭の状況の良さなどであった。 学校不満足や統制は,危険因子というより,むしろ問題行動や多動・不注意の結果,起きている状況とも考えられる。また,危険因子よりも多くの防御因子が家庭・親子関係の領域で認められたことは本研究結果の特徴である。これらをふまえると,子どもとの望ましい接し方を保護者に教育していくことにより,子どもの内在化・外在化問題の発現抑制が可能になることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2015年度に計画しながら実施できなかったベースライン調査は,地域を拡大して協力校を募った結果,2016年度に8公立小学校で実施することができた。しかしながら,本研究はベースライン調査の翌年にコホートの追跡調査を行う計画であり,必然的に1年ずつ予定が遅延していることになる。ただし,今年度の調査では父母それぞれ独立な形で,子どもに関する評定や家庭環境・家族状況についての回答も得られたことにより,子どもの内在化・外在化問題の暫定診断アルゴリズムに基づく評価が可能になっただけでなく,父・母・担任教師と子ども本人との評定評価の乖離に関する検証が可能になった。Goodmanらの英国での研究でも,父・母それぞれの評定を独立に調査した報告はなく,今後の詳細な解析結果が期待できる。 また,ベースライン調査に基づく,子どもの内在化・外在化問題に対する家庭環境・家族状況の関連性検討を踏まえて,保護者用のパンフレット(養育教材小冊子)を作成する計画も,上述のとおり1年順延している。これは今年度の実施計画の中核の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の実現に関して最大の課題であった,保護者も含めたベースライン調査を実行できたことで,1年の遅れはあるものの,今後は順調に遂行していくことが可能である。ベースライン調査の結果は協力校にフィードバックしたが,さらに詳細な解析を行い,学術雑誌に投稿していく予定である。また,それと並行して,保護者用のパンフレットの原版作成に着手する。このパンフレットでは,イラストを多用し,子どもの心理的成長過程における揺らぎや保護者の養育態度の重要性や問題のある接し方の例などを分かりやすく提示できるよう検討していく。さらに,学校・学級単位で報告できる機会を設け,研究全体への理解とさらなる協力を求めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度に保護者および担任教師への調査が実施できなかったために,経費が抑制されたが,2016年度に実施できたために,全体としてちょうど1年順延の形で計画が進行している。すなわち,1昨年の経費の繰り越し金によるものである。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度には,フォローアップ調査および協力校の保護者向けパンフレットの試作・教育活動等により,同時に複数の研究活動が並行して実施されることになる。それにより,繰越金額の多くが使用される見込みである。
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