小学5・6年生における内在化・外在化問題を捉えるために、Strengths and Difficulties Questionnaire(SDQ、子どもの強さと困難さアンケート)日本語版を用いて、541名の公立8小学校児童自身の回答ならびに父親の回答233児童分,母親の回答275児童分の評定データを得た。さらに翌年度、調査対象の小学6年生および中学1年生計134名に追跡調査を行った。SDQデータを項目反応理論解析し、親と本人での症状把握の差異検出のために特異項目機能(DIF)の検討を行った。その結果、1)親子間でのDIFは外在化問題(問題行動、多動・不注意)ではごく一部で、親子でほぼ同様の認識にあるが、2)内在化問題(情緒不安定)では顕著な差が認められ、症状が進まないと父母は問題に気づかないこと、3)子どもの問題症状の認識は父母間ではほぼ一致していることを明らかにした。さらに、児童の性別によるDIF検討から、1)父母とも娘に対してはより問題視する傾向があること、2)息子ではいじめ・からかわれに遭っていると過剰に評価され、娘では過小評価されている可能性があることなどを明らかにした。SDQ開発者による暫定診断アルゴリズムを適用すると、調査した児童の27%が行為障害(含、傾向)に該当し、多動性障害では6%、情緒障害は4%が該当した。多動性障害・情緒障害は諸外国の報告より低率だが、行為障害は10ポイント程度高く、過大に評定されている可能性が認められた。 各暫定診断を目的変数として、同時に調査した個人・学校・家庭変数、父母の評定による家族の凝集性・柔軟性などを説明変数としたロジスティック回帰分析の結果、子どもたちの内在化・外在化問題は生活圏のさまざまな状況と関連しており、学校変数の多くは増悪的だが、家庭変数では防御的で、父母の態度によって予防・軽減できる可能性が示唆された。
|