アリエスの『子供の誕生』(1960/邦訳1980)を契機に興隆を迎えた日本における子ども史研究から欠けているロシアの子ども史に関する基礎的研究である本研究課題は、農奴解放などの大改革により近代化をめざした1860年代以降から今日に至るまでの約1世紀半におよぶ近現代期における子ども、とりわけ乳幼児の生存と生活の特徴を主に量的側面から解明することを主務としてきた。また、近代化と子どもの関係を歴史的に考察する本研究は「工業化・都市化と子ども」「育児知識・教育と子ども」「栄養・衛生・疾病と子ども」などの問題の解明に貢献することをめざしてきた。 4年計画の最終年にあたる29年度は、1)1991年末のソ連解体後に誕生したロシア連邦(現代ロシア)における子ども(15歳未満)の権利をめぐる状況と課題を、国連・子どもの権利委員会の1993年・1999年・2005年の各総括所見の検討を通して、明らかにした。2)隣国ベラルーシ共和国における子どもの権利の実態とその保障の動向について概観した。3)間接的に関連する作業として、1970年代~1990年代前半の日本における保育実践の一事例を対象に、その原理的考察を試みた。 これまでの4年間の研究を通して、主要国が近現代社会で直面した出生率と乳幼児死亡率の低下傾向の多様な実態を整理したうえで、そこにおけるロシア(帝政ロシア-ロシア共和国-現代ロシア)の事例の普遍性と特殊性について総括的分析を行なった。その主な結果は近くまとめる研究成果報告書に記すつもりである。
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