研究実績の概要 |
今年度は、ヒト転写因子のDNA結合ドメインであるSp1亜鉛フィンガータンパク質とH2O2との酸化反応についてより詳細に検討を行った。これまでの検討から、酸化反応後の生成物の質量をMALDI-TOFマスにより測定すると、Sp1-F1では還元体から2マス減少するが、Sp1-F2,F3では14マス増加することが分かっている。14マス増加の理由は、以前の報告例を参考にすると、Sp1-F2,F3ではジスルフィドの他に、さらにその部分が酸化されてS-S=O酸化体が生成していると予想された。 そこで、S-S=O酸化体をTCEPで再還元してマス測定を行うと、分子量が還元体と比較して16マス増加することが分かった。この結果から、O原子がペプチドに1つ付加していることが考えられ、S-S=O酸化体の構造ではこの現象の説明がつかないことが分かった。そこで、Cys残基をAla残基に置換した変異体を作製し酸化反応を行ったところ、SH基がなくても16マス増加が認められ、他のアミノ酸が酸化を受けていることが明らかとなった。 Sp1-F2,F3の配列を見てみると配列中にMet残基があり、一般的には酸化反応を受けやすいアミノ酸残基として知られている。そこで、このMet残基をAlaに置換した変異体を作製し酸化反応を行うと、反応生成物が還元体より2マス減少したことから、Met残基がCysのSH基と同時に酸化されてS=Oが形成されていることが明らかとなった。次に、Sp1-F2,F3の各フィンガードメインの酸化体を再還元して得られるO付加体の構造をCDスペクトルにより検討を行ったところ、いずれの場合もMet残基にO原子が付加していても、CysのSH基が回復することによりZn(II)と結合し、二次構造を形成することが明らかとなった。また、金属置換体フィンガーの酸化についても検討い、金属イオンの重要性を明らかにしている。
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