研究課題/領域番号 |
26350964
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
遠藤 玉樹 甲南大学, 先端生命工学研究所, 講師 (90550236)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遺伝子発現制御 / 転写反応 / アロステリック相互作用 / アプタマー / リボスイッチ / RNA / 構造変化 / セレクション |
研究実績の概要 |
本研究課題では、ヒト細胞内において複数遺伝子の転写活性化を、同時かつ並列に制御できる人工システムを構築することを目的としている。そのために、特定の低分子化合物を用いて、ウイルス由来の転写トランス活性化因子(Tat)とその標的RNAであるTAR-RNAとの相互作用をアロステリックに制御し、転写反応レベルでの遺伝子発現制御を行う。 当該研究年度では、TAR-RNAのループ領域に、1.テオフィリン、2.テトラサイクリン、3.ネオマイシン、4.アデニン、5.グアニン、6.S-アデノシルメチオニン、7.チアミンピロリン酸と特異的に結合するRNAアプタマーを挿入したRNAを7種類設計した。各RNAは、標的化合物の存在下で、Tat由来のペプチド(Tatペプチド)との親和性が低下した(ChemMedChem, 9, 2045-2048 (2014))。これらのRNAを用いることで、各化合物に応答した転写反応のOFFスイッチを構築できると期待される。また、天然に存在するフラビンモノヌクレオチド(FMN)に結合するRNAアプタマーに関して、RNA高次構造中に存在する二次構造領域の熱安定性および一本鎖領域間の相互作用が、FMNとの結合親和性および結合反応速度に及ぼす影響を解析した(Bull. Chem. Soc. Jpn. (2015), in press、Angew. Chem. Int. Ed., 54, 905 (2015))。これらの研究成果は、制御分子となる分子に対する遺伝子発現制御システムの応答性を合理的に調節できる可能性を示したといえる。 細胞内での遺伝子発現制御を行うために、Tatを定常的に発現する細胞株を用いての検討を行った。In vitroで得られた、テオフィリンに応じてTatペプチドとの親和性を向上させるRNA配列を用いることで、細胞内で転写反応のONスイッチとして機能し得ることが確認された(論文未発表)。これにより、本システムがOFFスイッチとONスイッチの両方に適用できる可能性を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、複数種類の遺伝子発現を、同時かつ並列に制御可能な遺伝子発現の制御システムの構築を目指している。そのために初年度は、複数種類のアプタマーを利用し、標的となる化合物に応じて、転写反応活性化の起点となるTatペプチドとの相互作用をアロステリックに変動させるRNAの獲得を目指した。【研究実績の概要】にもあるように、これまでに、7種類の化合物に応じてTatペプチドとの親和性を減少させるRNAを設計・構築することに成功している。また、研究成果未発表ではあるものの、複数種類の化合物に応じてTatペプチドとの親和性を上昇させるRNAの設計・構築にも成功している。これらの点においては、当初の研究計画通りに進んでいると考えられる。 一方で本研究では、初年度において、Tatタンパク質を定常的に発現する細胞株を用いて、特定の化合物に応答して遺伝子発現を変化させるRNA配列をセレクションすることも計画していた。In vitroで一次セレクションを行った後に、細胞内でのセレクションを行うことを試みたものの、現在までに良好な成果を得るには至っていない。しかしながら、in vitroでセレクションを行った配列を細胞内で個別に評価することで、細胞内での遺伝子発現のONスイッチを構築可能であることを示すことができた。このことから、一度セレクションを行った配列の機能特性を、in vitroにおける細胞内疑似環境で解析し、改良を重ねていくことで、細胞内で効率的に機能するRNAの設計に活用できるのではないかと考えられる。 以上の点により、当該研究年度においては、研究目的の達成に向けおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
上述の【現在までの達成度】にもあるように、当初の研究計画で想定していた細胞内での機能性RNAの直接的なセレクションについては、現在までに良好な研究成果に至っていない。一方で、in vitroでは、複数種類の化合物に応じてTatペプチドとの親和性を減少もしくは上昇させるRNA配列を合理的に設計することが可能になってきている。また、in vitroで設計したRNAを用いて、遺伝子発現の制御が可能であることも示されつつある。そこで今後は、in vitroにて設計・構築した、特定の化合物に応じてTatペプチドとのアロステリック相互作用を示すRNA配列を個別に細胞に導入し、転写反応の制御機能を評価する。細胞内での機能が確認されたものについては、細胞への同時導入を行い、複数種類の遺伝子発現を同時かつ並列に制御することが可能であるかどうかを検討する。 一方で、【研究成果の概要】にもあるように、RNA高次構造における二次構造領域の熱安定性および一本鎖領域間の相互作用に着目することで、標的化合物との親和性を任意に調節できる可能性が考えられる。そこで、細胞を用いた転写反応制御の評価を行うと同時に、in vitroでの解析結果に基づきRNA配列を改変し、標的化合物に対する遺伝子発現の応答性を調節することを試みる。 以上の研究を推進することにより、①発現量を定量的に制御できる。②多種類の遺伝子を同時に制御できる。③OFF→ON→OFFのスイッチングを行える(可逆的制御が可能)。④OFF状態とON状態での遺伝子発現量の差が大きい。といった特性を兼ね備えた、遺伝子発現の制御システムを構築することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞内での機能性RNAのセレクション実験において良好な研究成果が得られていないこともあり、細胞培養などに必要となる物品費用に余剰分が生じた。また、当初予定していた学会での成果発表を見送ったことから、計上していた旅費が未使用となった。一方で、in vitroでの機能性RNAの設計・構築に関する研究成果が得られたことから、これらをまとめるために余剰の研究費の一部をRNA合成試薬などに使用した。
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次年度使用額の使用計画 |
上述のように、in vitroでの機能性RNAの合理的な設計が想定以上の研究成果を得られている。そこで次年度は、in vitroで設計したRNAの機能を、細胞内で個別に評価することを試みる。そのため、細胞培養実験に関わる物品費が当初の計画以上に必要となると予想される。そこで、本年度未使用となった研究費を使用し、細胞内での個別評価の実験を行う。
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