研究実績の概要 |
本研究課題では、特定の分子に応答したRNAの構造変化に基づき遺伝子の発現を制御できるシステムを構築する。 これまでに、構造変化の前後におけるRNAの熱安定性変化を考慮することで、標的の化合物に応答してTatタンパク質由来のペプチド(Tatペプチド)との結合親和性を向上させるRNAを合理的に設計することに成功した。この研究成果は、転写活性化因子であるTatタンパク質の相互作用を利用した細胞内での転写反応制御システムに活用できると期待される。 また本研究課題では、新生RNAの構造変化を利用した翻訳制御システムについてもその可能性を検討してきた。これまでに、四重鎖構造を形成するRNA配列に重複して、5'側に安定な二次構造を形成する配列が存在していた場合、転写反応直後には準安定な二次構造が優先的に形成されることを明らかにした。本年度は、いくつかの癌遺伝子のmRNAにおいて、このような塩基配列を見出した。さらに癌細胞内での発現量が上昇するtRNAが存在すると、四重鎖構造よりも二次構造の方が安定になり、タンパク質の発現量に影響することを示した(Angew. Chem. Int. Ed., 55, 14315 (2016)) 。この成果は、準安定な二次構造に相互作用する分子を用いて、四重鎖構造の機能を制御可能であることを示している。そこで、RNAの二次構造に特異的に結合するペプチド核酸(PNA)を利用した遺伝子発現制御システムの構築を念頭に、RNA二次構造とPNAとの結合反応を詳細に解析した。その成果として、pHが低い環境で結合速度定数が上昇することでRNAとPNAとの結合親和性が増大することを明らかにした(Phys. Chem. Chem. Phys., 18, 32002 (2016))。また、これらの研究成果を総説としてまとめた(The Chem. Rec., in press)。
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