研究課題/領域番号 |
26350966
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
石渡 明弘 国立研究開発法人理化学研究所, 伊藤細胞制御化学研究室, 専任研究員 (70342748)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グリコシル化 / 立体選択的合成 / 複合糖質 / オリゴ糖 / 結核菌細胞壁 / 収斂的合成 |
研究実績の概要 |
多剤耐性および高度多剤耐性結核菌 (MDR-, EDR-TB) などに共通な、結核菌の細胞壁成分である複合糖質の化学的研究を総合的に行いたく思い、本課題では、未踏領域である巨大な細胞壁成分複合糖質の合成研究をすすめている。初年度すすめた鍵となるアラビノフラノシル化の検討により、分子内アグリコン転移反応の利用により立体選択的糖鎖合成が可能となった。これにより、グリコシル化の中で立体選択的合成が一般的に困難な 1,cis 結合の構築に分子内アグリコン転移反応の有用性が示されたが、より一般性を高めるために引き続き適用範囲を調べることとした。特に、遠隔位からの転移は、各種デオキシ型の糖鎖の立体選択的構築法として、興味がもたれる。2-デオキシ糖やグルコースおよびガラクトース供与体などを用い2位以外の遠隔位からの転移の検討をおこなったところ、2-デオキシガラクトースおよび、ガラクトース4位における混合アセタールからの分子内転移の場合のみグリコシドを与え、供与体の活性化において β-脱離によるグリカール体の生成が深刻な問題となることが明らかとなった。一方、アラビノフラノシドの5位からの分子内シスグリコシル化は、希釈条件下、高いシス選択性でβ-アラビノフラノシドが得られ、遠隔位であっても立体的に有利な位置の混合アセタール部からの分子内転移が可能であり、立体選択的糖鎖合成に応用できる。 また、アラビナンフラグメントを利用し、結核菌細胞表層アラビナン分解酵素として期待できるビフィズス菌由来新規アラビナン加水分解酵素の探索および酵素のアラビナン切断機構の解明のための基質として用い、分解物の質量分析による解析をおこなった。合成フラグメントの還元末端アセトニド部の質量分析におけるタグとしての利用により、分解物の解析が容易になり、フラグメントの初期加水分解を含む特異な分解過程を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
結核菌の細胞壁成分である複合糖質の化学的研究における中心として合成研究をすすめているが、鍵となるグリコシル化反応の検討は、より強力かつ一般的な手法として確立するためには、総合的におこなう必要があると考えている。そこで、鍵反応の分子内アグリコン転移反応の基質一般性や遠隔位からの不斉誘導について調べ、その適用範囲に関する知見を得ることができた。少し時間を頂き検討をおこなったため、やや遅れが生じたと感じている。 また、合成の完了した分岐アラビナンを用いた酵素反応の質量分析においては、還元末端の保護基が質量タグとして利用できることがわかり、非常に複雑な酵素反応解析を比較的容易に詳細におこなうことができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、引き続き、結核菌類の骨格構造複合糖質の化学合成研究の一貫として、1)各種フラグメント・モチーフの構築検討を本年度までに得られた分子内アグリコン転移反応の知見を活かし、立体選択的アラビノフラノシル化反応及び、フラグメント縮合等を応用し挑む。また各成分のカップリングによるアラビノガラクタン構造の構築、マンノースキャッピングされたアラビナン構造の構築検討を行う。その他フラグメントを含めた天然複合糖質の合成を主軸に研究をすすめる。同時に、3)フラグメントおよびカップリング生成物の脱保護体の調製、合成研究の進み具合、また部分構造調製の進展具合によっては、期間内に4)ラベルフリーの ESI-MS Assay による基質の評価への展開、5)合成基質による新規細胞壁分解酵素の探索、解析研究を画策している。フラグメント自体のサイズが大きく構造解析が困難であるが必要に応じ共同利用可能な高磁場NMR等を利用し構造解析をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
糖鎖合成の鍵となる立体選択的グリコシル化として、分子内アグリコン転移反応の適用範囲についての詳細な検討に予想以上に時間を要し、予定していたフラグメント間のカップリングの詳細な検討などについては次年度以降に計画を変更せざるをえなかったため次年度使用額が生じた。やや遅れている計画について本年度すすめて行くため、および、研究の進展に合わせ成果発表の機会のために次年度使用予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
使用予定していた各種フラグメントカップリング用に必要な試薬、溶媒、硝子器具を購入できておらず、その購入費は次年度に合わせて使用する予定である。次年度の消耗品費は、進行度合いに応じ、予定している合成用試薬の補充分、各種カップリング用試薬、HPLC 用のカラムの購入などに使用する。NMR用液体ヘリウムの購入、高分解能NMR測定・質量分析費用として次年度も使用予定である。これまでの研究成果の一部についても次年度学会発表をおこなう予定であり、その国内海外出張費用旅費等としても使用する予定である。また、次年度の研究成果が出た場合の成果報告のため学会出張費に次年度旅費を使用する予定である。
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