近年の食の欧米化に伴った血栓性疾患の発症の増加が認められることから、申請者らは、in vitro血栓溶解活性評価系を用いて血栓溶解促進物質の探索を行なった結果、環状ペンタペプチド、マルホルミンA1を見出した。本研究ではマルホルミンの作用機序を解明することを目的に、ケミカルプローブの作成を作成し、マルホルミンの分子標的の解析を進めることである。本研究の推進によって、細胞性血栓溶解を促進する新しい制御機構が解明され、さらにはマルホルミンの分子構造を基盤とした低分子型血栓溶解剤の創製が期待される。 平成28年度は、CRISPR/Cas9を利用したlentivirusノックアウト(KO)システムを用いてRSKファミリーの影響を調べた。前年度の予備的な実験結果と同様、RSK1 KO細胞ではマルホルミンの線溶活性促進が阻害されたのに対し、RSK2 KO細胞ではマルホルミンの線溶活性促進に影響を与えなかった。この結果から、RSK1がマルホルミンの線溶促進活性発現に必須であることがわかった。 また、マルホルミンの構造活性相関研究で合成した活性型のマルホルミン誘導体はマルホルミン同様、RSK1のリン酸化を上昇させたが、不活性誘導体はRSK1のリン酸化に変化を示さないことから、MA1の生物活性とRSK1のリン酸化誘導に相関が確認された。 さらに、マルホルミンが誘導するRSK1活性化に続く、線溶因子の遺伝子発現の変動を調べた結果、ウロキナーゼとウロキナーゼ受容体の発現の上昇が確認された。また、マルホルミン処理によるウロキナーゼの分泌の増加も確認された。 以上の結果から、マルホルミンはRSK1の活性化を誘導することによって、ウロキナーゼの発現上昇を引き起こし、血漿中のプラスミンを介した線溶活性の賦活化を誘導することが明らかとなった。
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