研究課題/領域番号 |
26350974
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田代 悦 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (00365446)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | EMT / 薬剤感受性 / シスプラチン / カドヘリン |
研究実績の概要 |
EMT (Epithelial-Mesenchymal Transition) とは上皮がん細胞が間葉系細胞へとその形質を転換する現象で,EMTが誘導されたがん細胞は高い運動能や薬剤耐性などの悪性度を獲得するため,がん治療を困難にする.よって,EMTの逆プロセスであるMET誘導物質はがん細胞の悪性度を減衰させる新しいタイプの抗がん剤として期待できる.そこでまずは,抗がん剤耐性とEMTの関係に着目したMET誘導物質の探索系の構築を行った.これまで抗がん剤耐性になったがん細胞ではEMTが誘導されていたとの報告があるため(1),まずは様々ながん細胞に様々な抗がん剤を長時間暴露して薬剤低感受性細胞の樹立を試みた.その結果,シスプラチン(CDDP)をヒト大腸上皮がんLoVo細胞に約3ヶ月暴露し続けることでCDDP低感受性なLoVo細胞(LoVo-CDDP細胞)を複数クローン得た.これらクローンの多くは細胞間接着が失われて間葉系細胞様へと形態変化し,さらに上皮マーカーE-Cadherinの発現が減少するとともに間葉マーカーN-cadherinやVimentinの発現が増加していたことから,これらのクローンでは期待通りEMTが誘導されていた.さらにLoVo-CDDP細胞では,EMTを促進させる転写因子TWISTも高発現していた.また,EMTが誘導されて間葉細胞の形質を示したクローンほどCDDPに対する感受性も低かったことから,EMT誘導とCDDP感受性が相関していると示唆された.以上より,LoVo-CDDP細胞にMETを誘導して上皮細胞の形質に戻す物質はCDDP感受性を増強することが期待でき,抗がん剤耐性を克服するシーズ薬になること考えられる. (1)Kajiyama H. Int J Oncol (2007) 2, p277
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の大きな目標は,より病理モデルに近いMET誘導物質の探索系構築であった.この点について,目標は達成出来た.また一方で,構築したLoVo-CDDP細胞が何故故に間葉系の形質を示すのか,そのメカニズムの可能性の一つとして,文科省・化学療法支援班が配布している標準阻害剤キットを用いた解析よりTGF-βシグナルの活性化を見出した.この知見は抗がん剤耐性に伴うEMT誘導機構の解析に有用であると考えられ,研究方策を定めることが出来た点で前進である.
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今後の研究の推進方策 |
現在までに構築したLoVo-CDDP細胞を用いて,MET誘導物質の探索を行う.スクリーニングソースは,当研究室が保有する放線菌ライブラリーおよび擬似糖ライブラリー(小川誠一郎慶大名誉教授が合成)を用いる.また,放線菌サンプルの場合,細胞毒性物質が含まれるためにMET誘導活性が隠れてしまう可能性がある.その場合はサンプルをフラクション化してアッセイすることも視野に入れている. さらにこれまでに,構築したLoVo-CDDP細胞を用いて,文科省・化学療法支援班が配布している標準阻害剤キットからMET誘導物質をスクリーニングした結果,TGF-β受容体阻害剤のみがヒットした.また,LoVo-CDDP細胞が間葉系の形質を維持するためにはCDDPの持続暴露が必要なことも見出している.これらの結果より,LoVo-CDDP細胞はCDDPによって何らかの形でTGF-βシグナルが活性化しており,これが間葉系の形質の維持に関わっていることが予想出来る.そこで,ELISAを用いてTGF-βの濃度を測定することでTGF-βオートクラインの可能性,TGF-β受容体やSmadのリン酸化を検出するなどしてTGF-βシグナルが活性化している可能性について検討し,さらにCDDPとの関連について検証する.これによって抗がん剤耐性に伴うEMT誘導メカニズムの一端を明らかにする計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品が予定より安価に購入出来たため。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度研究遂行の為の消耗品購入に使用。
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