研究課題
EMT (Epithelial-Mesenchymal Transition) はがん細胞の遊走・浸潤のみならず,薬剤耐性やがん幹細胞形成にも関与し,がんの悪性化と密接に関わっていることが明らかになりつつある.しかしながら,悪性化の過程でどの様にEMTが誘導されるのかその分子機構については不明な点が多いのが現状である.したがって,EMTを制御する化合物はEMT誘導機構を解明するための良いバイオプローブになるばかりでなく,悪性化したがんに対する新しいタイプの制がん剤になることも期待される.本研究では,ヒト大腸がんLoVo細胞に制がん剤シスプラチンを3ヶ月持続暴露するとEMTが誘導された悪性がん細胞にその形質が転換することを見出したので(CDDPr/LoVo細胞),CDDPr/LoVo細胞の形質を再び上皮の形質に戻す化合物を探索した.その結果,SB431542やTGF-βRI kinase inhibitorⅡなどいずれもTGF-β受容体を阻害する化合物がヒットした.これらのことから,CDDPr/LoVo細胞ではTGF-βシグナルが亢進していることが考えられ,実際にCDDPr/LoVo細胞の培養液中のTGF-β量はLoVo細胞よりも増加していた.さらには,LoVo細胞にシスプラチンを添加すると3日後には培養液中のTGF-β量が優位に増加していた.これらのことから,シスプラチンを添加するとTGF-β分泌が亢進し,その結果EMT誘導とシスプラチン耐性を獲得したことが示唆された.
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