研究課題
ケミカルバイオロジーにおいて、小分子化合物は生体システムを研究するための重要なツールであり、化合物ライブラリーの中から目的の蛋白質に特異的に結合する小分子化合物を、より効率的に探索するための戦略が重要である。ケミカルアレイは、目的蛋白質と小分子化合物との物理的相互作用を網羅的かつハイスループットに解析するツールとして非常に有用である。本研究では、ケミカルアレイの検出能の向上に資する技術開発を行い、蛋白質に結合する小分子化合物の中から蛋白質の着目した標的部位に特異的に結合する化合物を高効率に探索する手法を確立する。昨年度は、ケミカルアレイの検出能の向上のための技術開発を行った。本年度は、昨年度に確立した条件に基づき、約3万種類の天然化合物および天然化合物誘導体、合成化合物を搭載したケミカルアレイを作製した。本手法の実用性を実証するために、標的とする蛋白質としてp38MAPキナーゼを用い、p38のアイソフォームに特異的に結合し、キナーゼ阻害活性を有する化合物の取得を目指した。p38には、4つのアイソフォーム(α, β, γ, δ)があり、p38α/βはゲートキーパーと呼ばれるアミノ酸がThrであるのに対して、p38γ/δではMetとなっている。p38α/β特異的な阻害剤であるSB203580は、p38γ/δに対して阻害活性を示さない。この違いは、ゲートキーパーのアミノ酸に起因しており、p38αにおいてゲートキーパーをThrからMetに変異させたp38αT106M変異型では、SBに対して非感受性になる。そこで、p38αT106M変異型に特異的に結合する化合物を探索するために、p38αT106M変異型およびp38α野生型の両方をそれぞれケミカルアレイに処理し、p38α野生型には結合せずp38αT106M変異型のみに結合している化合物を同定し、4つの候補化合物を得ることに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度計画していたケミカルアレイによるスクリーニングを完了し、平成28年度に計画している化合物の阻害活性評価に取り組みだしている。
同定されたp38αT106M変異型に結合する化合物に関して、p38αT106M変異型およびp38α野生型のキナーゼ活性に与える影響をin vitroキナーゼアッセイにより評価し、p38αT106M変異型を特異的に阻害する化合物を同定することにより、このスクリーニング系の有用性を評価する。また、同定された化合物の各種キナーゼに対する阻害効果の特異性を明らかにする。
平成27年度では当初の計画通りスクリーニングを順調に遂行することができ、目的の阻害剤を取得することができた。平成28年度ではこの取得した有望な阻害剤の各種キナーゼに対する阻害効果の特異性を明らかにするために費用が必要なため、平成27年度の研究費の使用を極力抑えた。
次年度使用額と平成28年度分の助成金と合わせて、平成28年度に行う化合物の各種キナーゼに対する阻害効果の特性の評価および開発したスクリーニング系の有用性の評価のために使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 10件、 招待講演 2件)
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