研究課題
ヒストン修飾やDNAメチル化等のエピゲノム情報は、細胞分化・細胞リプログラム等の細胞運命を左右する鍵となり、その異常はがんを始めとする様々な疾患の原因となることが知られている。ヒストン修飾では、アセチル化やメチル化が遺伝子活性化に大きく関与するため、これら反応を担う酵素阻害剤によるエピゲノム制御が進められている。しかし阻害剤単剤は作用領域が広範囲のため、阻害効果が過多になる弊害がある。この問題点解決のため、本研究ではヒストン脱メチル化酵素阻害剤へDNA塩基配列能を有するピロール-イミダゾールポリアミド(PIP)を融合させて作用領域を局所化させる研究を進めた。具体的に2015年度は、PIPとヒストン脱メチル化酵素阻害剤であるNCD38との融合分子を作成し、ヒストンメチル化状態の変化をRNA Seqによって網羅的に解析した。PIP-NCD38融合分子としては、プロトタイプとしてPyPyPyPyの配列を持つPIP1及び、PyPyImPyの配列を持つPIP2へNCD38を融合させた分子を合成し、2 mMの濃度で20日間細胞を処理した。ヒト大腸がん細胞RKOへ処理を行った系において、両PIP-NCD38で処理した細胞では、NCD38単体処理では見られなかったヒストンメチル化上昇領域が見られた。
2: おおむね順調に進展している
PIP-NCD38のプロトタイプ分子の合成に成功し、その分子が親分子であるNCD38とは異なる遺伝子を活性化できることが2015年度の研究結果で示された。これは、4 mer型の短いPIPであってもNCD38単体よりも反応領域に選択性が現れている可能性を示唆しており、このプロトタイプ分子の構造を基本型として現在ライブラリ構築が進行中であるなど、2015年度の目標はおおむね達成できた。
PIP-NCD38融合分子のユニークな遺伝子活性化能を確認できたことから、今年度はPIP-NCD38によって選択的に活性化された遺伝子群に関しては、この分子の結合領域との相関性を解析し、より長い配列を認識できる PIP と融合させる際のデザインへ応用も、本研究で進行予定である。現時点では4 mer型のPIPという形で認識配列も短いため、よりDNAへ結合しやすいヘアピン型の構造を持つPIPとの融合分子ライブラリーを作成し、反応領域特異性を前年度と同様に解析する。特に良好な遺伝子活性化を確認できた場合は、7-9塩基認識型のヘアピンPIPとの融合分子を作成するなど、さらに特異性を高めるアプローチも行う。
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