研究実績の概要 |
ヒストン修飾やDNAメチル化等のエピゲノム情報は、細胞分化・細胞リプログラム等の細胞運命を左右する鍵であり、その異常はがんを始めとする様々な疾患の原因となっている。そのため、ヒストン修飾酵素を標的とした制御概念開発が進められている。最近では、一部のがんに対してヒストン脱メチル化酵素阻害剤が有効であることが報告された (Mohammadら, Cancer Cell, 2015)。しかし、阻害剤単剤は作用領域が広範囲で選択性が低い弊害がある。このため、本研究ではヒストン脱メチル化酵素阻害剤へDNA塩基配列能を有するピロール-イミダゾールポリアミド(PIP)を融合させて作用領域を局所化させ、選択性を高めた新規薬剤開発を進めた。 前年度の2015年度において、開発したPIPとヒストン脱メチル化酵素阻害剤NCD38を融合させたプロトタイプ分子について、大腸がん細胞の培養系でのヒストンメチル化部位の選択性を評価したところ、NCD38単独では変化の起こらない部位に、プロトタイプ分子はヒストンメチル化を誘導できることが確認できた。 以上の結果を受け、最終年度である2016年度の研究では、プロトタイプ分子による選択的なエピゲノムや遺伝子発現状態の変化をより詳細に解析した。ヒストンアセチル化抗体によるChIP-Seqや、RNA-Seqによる網羅的解析を中心とした研究により、プロトタイプ分子が多数結合できる領域とヒストンアセチル化レベルの上がる領域に強い相関性が認められた。このことからPIPとNCD38の融合分子が結合領域選択的に遺伝子を活性化できる可能性が示唆されたため、8塩基認識型のヘアピン型PIPへNCD38を融合を試み、現在この分子による選択的な遺伝子活性化能の評価が進行中となっている。
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