研究課題
試験管内進化(IVE)技術は、標的分子を特異的に認識する分子を創製する有効な手段であり、バイオマーカー検出用の分子プローブや細胞内特定分子のイメージングツール、また抗体医薬に代わるバイオ医薬等を創出する技術として期待されている。我々は、生物進化の過程で保存(選択)されてきたある種の生理活性ペプチドの分子骨格が、ランダムなアミノ酸配列を空間提示するのに都合が良く、それを鋳型とするペプチドライブラリからのIVE法によりそのライブラリが標的多様性を示すことを見出した(Mol. Brain, 2011; Anal. Biochem. 2011; Toxicon, 2012)。この鋳型となる分子骨格は、ジスルフィド結合やβ構造を有するコンパクトで堅牢な構造を特徴とする。そのため、これらの構造を如何に天然に近い形で効率よく再現できるかがIVE法の鍵となる。生体内ではシャペロンを始めとする巧妙な仕組みにより、複雑な構造を有するタンパク質やペプチドのリフォールディングが実現している。本研究では、有機ナノチューブが変性タンパク質の正しいリフォールディングを促進し活性タンパク質を再生するのに極めて有用という最近の知見(ACS Nano, 2012)に基づき、IVEのプロセスに有機ナノチューブのミクロ環境を利用してより安定したリフォールディングの達成によりIVE技術の高度化・汎用化を目指した。研究は、(1) 多様な有機ナノチューブゲルの調製、(2) IVE法で用いるペプチドライブラリの構築に適した分子骨格を有し、分子量やS-S結合の数の異なる複数の生理活性ペプチドについて無細胞タンパク質合成した産物の生理活性評価、(3) (2)のプロセスに(1)で得た種々の有機ナノチューブゲルを組合せ適正なリフォールディングによる生理活性を示すか検証し、そのための最適条件を探求。以上3段階のプロセスから成る。
2: おおむね順調に進展している
ジスルフィド結合により安定した構造を維持する生理活性ペプチドの典型例として4種類[α-conotoxin(イモガイ由来)、クモ毒由来でT-type Caチャネルブロッカーとして同定したICK (Inhibitor Cystine Knot)モチーフを有するGTx1-15、Kunitz型のタンパク質加水分解酵素阻害剤であるBPTI (bovine pancreatic trypsin inhibitor)、蛇由来の神経毒であるスリーフィンガー型ペプチドのα‐ブンガロトキシン(α-Bgtx)]を設定した。これらは、アミノ酸残基数が13, 35, 58, 74残基であり、S-S結合は2, 3, 3, 5個、標的分子はニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR), Ca channel, trypsin, nAChRである。現在までに、これら全てのcDNAを構築しcRNA合成、無細胞タンパク質合成系(小麦胚芽抽出液)によるタンパク質合成と生理活性評価を完了した。また並行して有機ナノチューブの合成依頼及び試作品の提供を受け、前出の無細胞タンパク質合成系への導入を進めている。一方、IVE法に用いるペプチドライブラリを評価するために、前出4種のペプチドを鋳型とするランダムペプチドライブラリも構築し、trypsinを標的とした従来法による選択によりライブラリの評価も行った。その結果、ペプチドライブラリからは天然のトリプシンインヒビターと遜色ない高い阻害活性を示す人工ペプチドを創出することに成功した。
産総研内の有機ナノチューブを専門とするグループとの連携を強化し、さらに多様な有機ナノチューブについて無細胞タンパク質合成系への導入とリフォールディング最適化条件の検討を進める。その結果に基づき有効な有機ナノチューブをIVE法の工程の中で無細胞タンパク質合成過程に組み込み、スリーフィンガー(3F)型ペプチドやICKモチーフを鋳型とするランダムペプチドライブラリから特定の標的分子を認識するペプチドを効率よく創出する手法を確立する。
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