研究課題
本研究の目的は、海馬CA2領域を介した神経回路の担う記憶学習や社会的行動に果たす役割を解明することであり、シナプス伝達、可塑性を担う分子を標的としたCA 2 選択的遺伝子改変マウスの作製と解析を進めている。そのため、(1) Cre 活性およびテトラサイクリン投与依存的に、CA2 領域のシナプス伝達を阻害する破傷風毒素軽鎖(TeNT)を発現するマウスを作製し、電気生理学的解析、行動学的解析を行うこと、(2)CA2で重要な機能を果たしていると予想される分子を標的としてCre/loxP 組換え系を用いたCA2 選択的コンディショナルノックアウト(KO) マウスを作製、または(3) Cre 活性依存的またはテトラサイクリン依存的にCRISPR/Casシステムを用いてCA2 選択的にKOして(1)と同様に解析することを計画した。(1)については、Rgs14-floxed STOP-tTAノックインマウスを作製し使用することでTeNT発現マウスを樹立し、このマウスにおいて長期間のTeNTの発現が異常行動、特に攻撃性の亢進という極めて興味深い表現型を示すことが見出されたが、免疫組織化学的解析及び他のレポーターマウス等を用いて検証した結果、CA2での発現が確認されなかった。(2)について、S100b-、Abat-iCreノックインマウスについても同様に、CA2選択的なCre活性が認められなかった。(3)について、数種の標的遺伝子を対象とした変異導入条件を検証し、少なくともES細胞においてはゲノムDNAへの変異導入が可能であることを確認できた。しかし新規のCas9発現マウス樹立が必要であると考えられたため現在作製中であり、樹立されしだいCA2選択的KOマウス作製を進める。
3: やや遅れている
(1)Rgs14-tTA-TeNT発現マウスでは、ドキシサイクリン非投与による恒常的なTeNT発現が新生仔の致死を引き起こすが、ドキシサイクリン投与による致死性の回避が可能となったことで繁殖効率が高まり詳細な解析を行うことができた。しかしレポーターマウスを用いtTA活性を検証した結果、予想外なことにCA2領域に明確な活性が認められなかった。現在はAmigo2-floxed STOP-tTAノックインマウス作製に着手している。(2)S100b-、Abat-iCreノックインマウスを用いてCA2選択的コンディショナルKOマウス樹立を試みた。問題となっていた繁殖効率については改善されたが、レポーターマウスによりCre活性を検証したところ、両系統ともCA2錐体細胞での活性は確認されなかった。現在は特異性がやや低いもののCA2錐体細胞で活性が確認されているCacng5-、Rgs14-iCreマウスを用いて交配を継続しつつ、別の遺伝子(Pcp4等)を対象として新規iCreマウス作製を計画中である。(3)Cre活性依存的またはテトラサイクリン依存的Cas9発現マウスを入手していたが、オフターゲット効果を回避するための改良型Cas9(SpCas9-HF1)が開発されたことにより、これを利用した新規Cas9発現マウスが必須であると考えられたため、その作製に着手した。
(1)CA2選択的テトラサイクリン誘導型TeNT発現マウス作製を継続する。主要な解析となる社会性行動評価を含む網羅的行動テストバッテリーについて各種実験条件を事前に検討することで、マウス作製後に速やかに実験を開始できるよう準備を整える。(2)(3)現在までにマウス作製に使用してきた遺伝子に加え、別の候補遺伝子(Pcp4、α-actinin等)も加えて、引き続きCA2錐体細胞選択性の高いドライバーマウス開発を行ってゆく。さらに開発中のコンディショナルKOマウス作製法を適用し、CA2選択性の高いKOマウスの系統から順次、網羅的行動テストバッテリーによる解析を進める。さらに(1)~(3)で得られた知見をもとに、CA2領域の機能的役割を明確にする解析を行う。近年、CA2に関する多くの研究がなされており、特に興味深いことに社会性記憶への関与が示唆されている。CA2と連絡している乳頭体上核を標的として、神経活動の操作を行うことで海馬のシータ波、空間学習ならびに社会性行動への影響を評価する。
マウスの繁殖、維持にかかる動物購入費、飼育費および分子生物学的、生化学的解析、遺伝子改変マウス作製に要する試薬類を物品費190万円として計上した。電気生理学的解析、組織学的解析は、それぞれ研究協力者に依頼することになるため、研究打ち合わせのための国内旅費と研究成果の発表のための国内外の旅費として90万円を計上した。また、動物飼育の作業補助および実験補助1名の謝金に40万円を充てた。また、論文投稿にかかる諸経費として60万円を計上した。現時点で研究全体の基本計画にほぼ変更は生じていない。したがって、計上した経費総額には変更が無いが、遺伝子変異マウスの繁殖効率低下等の理由により研究の推進状況に若干の遅延が生じたため、計上した経費を次年度にて各項目においてそのまま使用することになる。
次年度使用額59万円の内訳として、全体の比率にほぼ従って物品費33万円、旅費13万円、謝金5万円、諸経費8万円を増加させて計上する予定である。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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