研究課題/領域番号 |
26350984
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
宋 時栄 徳島文理大学, 神経科学研究所, 教授 (00399693)
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研究分担者 |
中島 健太郎 徳島文理大学, 神経科学研究所, 助手 (20449911)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / 病態モデルマウス / 樹状突起 / シナプス / 免疫組織化学 |
研究実績の概要 |
今年度はアルツハイマー病病態モデル動物である 3 x Tg-ADマウスを用いて以下の成果が得られた。 1. マウスの脳で発現しているSCD1、2を識別できる抗体を用いた免疫組織化学的検索によって、生後400日の野生型マウスの海馬錐体細胞ではSCD1、2いずれの免疫活性も検出されることが分かった。しかし、同齢の3 x Tg-ADマウスでは、SCD1の免疫活性は対照動物並みであったが、SCD2の免疫活性は対照に比べて著しく減少していた。またSCD1の免疫活性はいずれのマウスでもオリゴデンドログリアでは検出されず、オリゴデンドログリアではSCD2のみが発現していることが確認された。 2. 免疫組織科学的検索によってシナプス関連蛋白の発現を調べてみると、生後200日の3 x Tg-ADマウスの海馬CA1 放線状層における synaptobrevin の免疫活性は、野生型マウスに比べて減少していた。一方で vesicular GABA transporter の免疫活性は生後200日では差がなかったが、生後480日では野生型マウスに比べて3 x Tg-ADマウスの海馬CA1 錐体細胞層、放線状層で増大していた。 3. 生後240日の野生型マウス、3 x Tg-ADマウスの海馬スライスの錐体細胞にパッチ電極から biocytin を注入した後に固定し、Alexa-Fluor488標識streptavidinと反応させ共焦点レーザー顕微鏡で樹状突起の形状を観察すると中、小型の棘突起が減少し、比較的大型のビーズ状に腫張した棘突起が樹状突起に沿って認められた。こうした所見と一致して、3 x Tg-ADマウスでは、野生型で見られるような細長い頸部を持つ spineとの間に形成される興奮性シナプスが少なく、頸部が短い、扁平隆起状の興奮性シナプスが目立つことが電子顕微鏡観察によって見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度、作成に成功したSCD-1、2を識別できる抗体を用いて、神経細胞やアストロサイト、オリゴデンドログリア、ミクログリアなど多様な細胞でのSCD isoformの発現を解析するようになった。今年度は3 x Tg-ADマウスでの解析結果から、両者の発現の違いを検出することができた。既に行った抗SCD抗体を用いた免疫組織化学的解析によって、3 x Tg-ADマウスでの初期病変は海馬の樹状突起領域で検出される可能性が示唆されたが、今年度はそれと関連すると思われる、同領域でのシナプス関連蛋白の免疫活性の変化や棘突起の形状の変化が見出された。一方で、3 x Tg-ADマウスを用いた生後早期から老齢期に至る多点での組織学的変化とlaser capture microdissection(以下LCM)による遺伝発現解析を組み合わせる計画は、必要量のマウスの飼育に困難を来たしたため、次年度以降に持ち越すことになった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの知見から、海馬の樹状突起領域での病変がアルツハイマー病の病態モデルマウスでの初期病変の有力な候補であることが考えられた。そうした初期病変におけるSCDの機能的役割に手がかりを得ることを目指して、最終年度は、3 x Tg-ADマウスを用いた初期病変の成立過程の解析に力を注ぐ予定である。この目的のために、これまでに技術的改良を加えて来たLCMを用いる解析技法によって、脳の特定領域をくり抜いて得られる微量蛋白の解析や、固定した組織切片での遺伝子発現解析が可能となってきている。特に固定した組織切片での遺伝子発現解析が可能となったことで、同一の固定組織ブロックから従来、標準的に行われて来た病理組織学的、免疫組織化学的解析と、LCMと組み合わせたreal-time PCRによる解析が同時に行えるようになり、両者を比較検討することで、病変成立の背景にある様々な分子の発現変化を探索できる。こうした技法を活用して、これまでに3 x Tg-ADマウスを用いて観察された SCD2やいくつかのシナプス関連蛋白の発現変化を生後早期から老齢期に亘る多点での経時的変化という観点から解析することでアルツハイマー病の初期病変におけるSCDの機能的役割を探索する
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次年度使用額が生じた理由 |
3 xTg AD マウスの維持、交配が予定した計画どおりに進まず、これに関連した研究課題に遅れが生じたため、購入予定だった消耗品の購入を控えた。また予定していた学会参加が出来なくなり、その分の旅費・滞在費に繰り越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
遅れている3 xTg AD マウスでの経時的変化の解析に全て使用する予定である。
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