身体内部環境の受容によってもたらされる内受容感覚(interoception) は、人間の感情経験のメカニズムを解き明かすための鍵となる概念であることが示唆され、その神経基盤として島皮質(Insular cortex)の重要性がクローズアップされてきた。その一方で、島皮質は、記憶などの認知機能への関与も指摘されているが、これらの認知機能をどのように支えているのか、また感情を支えるメカニズムとどのような関係性にあるのかという点については、ほとんど検討されていない。本研究では、内受容感覚の鋭敏さ、種々の認知機能のパフォーマンス、感情認識能力、これらを支える神経基盤について検証し、記憶や推論といった認知機能の成り立ちを心・脳・身体の総体として理解し、感情経験のメカニズムとの相違性を検討することを目的とした。 3年度目である本年度は、昨年度に引き続き健常高齢者を対象として内受容感覚の鋭敏さ、感情認識能力、種々の認知機能を調べ、彼らの脳機能画像および構造画像の撮像を行った。前年度までに継続して、島皮質などの局所的脳損傷例を対象とした神経心理研究も実施し、健常者との比較を行った。この結果、健常高齢者においても、若年者と同様自身の感情認識能力と内受容感覚の間に密接な関係性があることが分かった。しかし、その関連性は若年者とは異なるものであった。MRI研究の結果、その原因として、島皮質の器質的な変化が存在している可能性が明らかになった。また、注意機能が内受容感覚と感情の関連性に介在することを示唆する結果を得た。 成果は、複数の国際学会で発表し論文として投稿する準備を行っている。
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